今日は味覚についてのお話です。
味覚を細かく調べると、いくつかの要素に分かれることが知られています。
甘味、酸味、塩味、苦味、うま味
この5つを基本味といいます。
舌の表面には味蕾という構造があって、その表面には、それぞれの基本味に反応するセンサーがあります。つまり「甘味に反応するセンサー」「酸味に反応するセンサー」「塩味に反応するセンサー」「苦味に反応するセンサー」「うま味に反応するセンサー」といった具合にそれぞれのセンサー(受容器)があって、塩味センサーに対してナトリウムイオン(食塩に含まれる)、といった具合に対応する物質がくると反応して、その反応を脳へと伝えています。そして、基本味の組み合わせで味が表現されているというわけです。
ちなみに、わりと最近まで基本味は「甘味、酸味、塩味、苦味」の4つとされていました。出汁・旨み調味料の歴史が長い日本ではごく当たり前に考えがちな「うま味」ですが、科学研究の中心地、米国・英国では、味の構成要素として認められていなかった、ということはある意味興味深いです。味覚に対する意識の違いを表している可能性があります。しかし、最近の研究で「うま味」つまりアミノ酸に応答するセンサーが舌の表面(味蕾)で見つかり、基本味として受け入れられました。という訳で「うま味」は英語でも「umami」です(最近、6種類目の「基本味」が見つかったという話も)。
うま味が基本味として認められるのであれば辛味はどうでしょう。Gatto e topoで紹介している各国料理でも、唐辛子などスパイスによる辛味は欠かせない存在です。ところが、実を言うと、辛味は5つの基本味には含まれていません。味蕾表面には辛味に応答する特別なセンサーは存在しないのです。では、どうやって辛味を感じているかというと、、、秘密は舌の内部にあります。表面から少し入ったところには、痛みを感じる神経がたくさん分布しています。痛みを感じる神経の表面には、唐辛子の辛味成分であるカプサイシンに反応するセンサー(カプサイシン受容体)が沢山あります。つまり、「辛味」とされていた感覚は、痛みと同一のものだったのです。そんな訳で、辛味は、基本味には分類されず「(適度に弱い)痛覚」の仲間とみなされています。だからこそ、辛すぎる食べ物は「痛い」と感じるわけです。ちなみにこのセンサーは、熱(温度)にも反応します。だから唐辛子の辛さは「熱い(hot)」と表現されるし、辛いスープはいつまでたっても熱く感じる傾向にあるのです。
そんな訳で、「辛味は味覚(基本味)に含まれない」のですが、そうはいっても、私たちは舌からの情報だけで物を味わっている訳ではありません。舌から感じ取る基本味に加えて、舌・口の中全体に広がるぴりぴりとした辛味(実は痛み)、物体のテクスチャー・硬さ・弾力、そして鼻に抜ける匂いなど総合的に感じて「味わって」います。もちろん、口に入れる前の見た目も大切な要素です。辛味も料理を味わう上で大切な要素であることは間違いありません。さらに、カプサイシンには食欲を増進させたり、発汗などによって体温を下げてくれる効果があります。だから、インドやタイなど暑い地方を中心に、辛い料理が人気があるのです。
さて、唐辛子に含まれるカプサイシンに対するセンサーですが、舌にとどまらず、全身の皮膚の痛覚神経に分布しています。だからこそ、ハラペーニョやハバネロのように強力な辛味を持つ唐辛子を切るときには用心した方がいいのです。その怖さ(辛さ!)を知らないとき、適当に包丁でハバネロのみじん切りを作っていたら、ひりひりと手が腫れ上がってしまい、数時間にわたって苦しんだという苦い経験があります。辛い唐辛子を扱うときはぜひ気をつけてください。
もう一つ、辛い食べ物を口にして、最初の瞬間は余裕だ、と思っていたのに、激しい辛味が遅れてやってきた!という経験はありませんか?辛さを感じるのは、舌でも皮膚でも表面から少し入ったところですから、カプサイシンが浸透してから感じられます。しかもカプサイシンに反応する痛覚の神経は、非常に細く、情報を伝える速さが他の神経よりゆっくりとしています。痛みの中でも鋭い痛みとじんわりとした痛みがあると思いますが、カプサイシンに反応する「辛味」を伝える神経は後者に一致します。だから他の味覚に比べて、少し遅れて感じるのです。しかも辛味を抽出するには、ごま油やオリーブオイルといった油を使う必要があることからもわかるとおり、カプサイシンは油に溶けやすい性質を持っています。だから洗い流すのも大変です。いくら水を飲んでも、辛さが口に残った経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。個人的な経験では口に残った辛さを緩和するには脂質を含む牛乳やココナッツミルクが有効(?)です。その辺りでも、インド料理やタイ料理はよく考えられていると覆います。
いろいろメリットのあるカプサイシンですが、体は「痛み」として感じていることは先に書いた通りです。適度な辛さは心地よいですが、辛すぎるのは考え物、痛覚の神経を痛めたり、自律神経の反射によって消化器に負担をかけたりします。ほどほどの辛さで料理を楽しむのが健康にはよさそうです。
(イラストはwikipediaより)
追記:読みにくい箇所があったので、加筆・修正しました(8月8日)。
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