特集

2011年11月27日日曜日

食品中の放射能(How)~どのように調理すればよいか~

放射能を少なくする調理法です。核実験やチェルノブイリのときを参考に、食品中に含まれる放射性物質を除去する方法が研究されています。そこから得られた教訓は次の3つ。




食材からの放射性物質を少なくする3原則

「洗う」
 →葉物野菜(特に新たな放射性物質放出があったとき)

「除く」
 →魚では、エラ、内臓、骨等のアラを除く
 →野菜では、へたや皮を除く

「しみ出させる」
 →野菜・魚では、茹でる、マリネにする(肉でも有効)
 →ヨーグルトは水切りに


放射性セシウムや放射性ヨウ素が水に溶けやすい性質を持つ(形で拡散した)ことを考えれば、とてもわかりやすいです(セシウムは、土やコンクリと結合して不溶化する性質もあります)。


洗う:食材をよく洗う

葉物野菜では、洗うだけで3割強の放射性セシウム、約2割の放射性ヨウ素を除去できると言われています(茹でこぼしによりさらに減らせます)。これは葉の表面に付着した放射性物質に対するものなので、放射性降下物(フォールアウト)が問題になる時期に有効です。ホウレンソウなどの葉物野菜を中心に今回の原発事故では3-4月に問題になりました。一方、土壌からの吸収が問題になる穀類の場合、内部に取り込まれてしまっているので必ずしも有効ではありません。葉物野菜に関しても、新たな事態に進行しない限り、放射性降下物を心配する必要はないと考えていますが、表面に付着した放射性物質を含む土埃を取り去るのには有効です。公表されている食品中の放射能に関する検査結果によれば、一般的な野菜は多くがND(検出限界以下)となっていますが、これらの検査結果は洗浄後の値ですので、洗い残しには注意が必要です。

肉や魚では、食材を洗うのはそれほど有効ではありません。そもそも付着した放射性降下物を落とすのに有効な方法だからです。魚の場合、洗うだけで除去できる放射性物質の量は1割以下(5%程度)ですが、もちろん洗わないより洗うほうがましなのはいうまでもありません。


→うちでは原発事故以来、野菜を以前より強めに洗い、土が残らないように気をつけています。キノコやハーブ(特にバジル)を洗わずに使うことを薦めるレシピも多いですが、汚れや残留農薬のこともあるので事故以前から水洗いを心がけています。魚介類は、食中毒防止もあって(特に生で食べるとき)、元から水道水をつかって念入りに洗っています。




除く:放射性物質がつきやすい場所を取り除く

魚では、エラ、内臓、骨等のアラを取り除くのが有効です。放射性セシウムは全身の筋肉に分布する特徴があるので、特に内臓に集中することはないと思いますが、他の核種が蓄積する可能性があります。特に代謝を行う肝臓や老廃物の排出を行う腎臓には要注意です。
骨髄への損傷(→白血病)が心配されている放射性ストロンチウムは、骨に蓄積します。特に魚の骨を取り除けば、放射性ストロンチウムの多くを取り除くことができます。ただし、原発に批判的な環境保護団体の調査でも、スーパーに出回っている魚介類(海水魚)では放射性セシウムで最大60Bq/Kgにとどまっているので(2011年11月現在)、放出比率の少ない放射性ストロンチウムについては今のところ過敏になる必要はないと考えています(原発周辺を除く)。

野菜では、野菜の塵がたまりやすい場所、へたや皮、凹んだ場所などを除くと、表面に固着した放射性物質を取り除くことができます。「洗う」同様に、放射性降下物の恐れがほとんどない現状では、それほど有効ではありませんが(+それほど過敏になる必要はない)、残留農薬などの面からも有効です。なお、家庭で行う処置ではないですが、放射性セシウムは糠などに蓄積していることが知られており、コメでは、脱穀、精米することで放射性セシウムを半減(ストロンチウムは半減以上)させることができ、コメをとぐ(洗う)ことでさらに減らすことができます。麦などの穀類も製粉の時点で放射性セシウムが2割以上減少するようです。


→うちでは、魚の産地(水揚げ港が太平洋側)によって、内臓・骨・頭などのアラを取り除いてから調理しています(いつも厳密にやっているわけではないですが)。野菜や果物でもピーマンのへた、果物の芯の処理に気をつけたり、産地(東日本)に応じて、キュウリやトマトの皮を剥くなどの処理をしたりしています。実は海外のレシピでは、キュウリやトマト、ナスの皮を剥くことが多いのですが、いままで省略していたのをきちんとやるようになった、という事情もあります。コメについては、調理法の関係で無洗米を主に使っていますが、普通に炊くときには、数回といでからいただいています。


しみ出させる:漬ける、茹でるなどでしみ出させる

葉物野菜は、茹でることによって、固着した放射性物質を半減させることができます。「洗う+茹でる」によって、三分の二近くの放射性セシウム(そして六割近くの放射性ヨウ素)を除去できることになります(放射性降下物対策)。長時間浸け込むことで、放射性物質をしみ出させるのはさらに有効で、キュウリ(小型)では、ピクルス(酢漬け)にすることで放射性セシウムの九割近くが除去できたようです。キノコには多くの放射性セシウムが蓄積してしまうことが知られていますが、チェルノブイリ事故以来、東欧~中欧ではキノコに含まれる放射能が問題になっていますが、酢漬け(ピクルス)にするなどして放射性セシウムを除去した上で食べられているようです。もちろんピクルス液を飲んではだめです。このように、放射性セシウムは水に溶けやすいため、脂質にはほとんど含まれません(ここがダイオキシンなどと違うところ)。ですから、バターは安心ですし、ヨーグルトも水切りの処置をすれば、乳清(下に落ちる水分)の方へ放射性セシウムの多くがうつります。

肉や魚もマリネや塩漬けが有効です(おそらく茹でこぼしも)。チェルノブイリ事故直後にNature誌に掲載された論文(Wahl et al., 1986)によると、肉のブロックを10%食塩水に数週間から数日浸け込むことで、放射性セシウムを大幅に減らすことができたことが報告されています。家庭でこのような処置をするのは現実的ではありませんが、おそらく魚のマリネ塩鱈(リンクは簡易版のレシピ)でも、水溶性のセシウムはマリネ液や戻し汁の方へ移動していくはずです。漬け時間が短い場合や冷凍処理をしない場合、どの程度抜けるのは未知数ですが、プラスに働くことは間違いありません。

注意しないといけないのは、しみ出すのは、放射性物質や残留農薬だけではないことです。水溶性のビタミンや旨味成分も抜けてしまう上、塩水漬けの場合、塩分のとりすぎにも注意が必要です。


→うちでは、原発事故以前からホウレンソウは必ず茹でてから使っています(硝酸塩の問題があるため)。元からですが、魚はマリネや塩漬けにしてからいただくことが多いです。ただ、「しみ出させる」の処理は栄養分が抜けてしまうこともあり、いつもやっている訳ではありません。魚介類については、内臓や骨を食べ過ぎないようにしている程度(他の汚染物質の心配もあるので)で、原発周辺以外は概ね安全と考えて、適度に消費しています。



以上、3つのポイントの詳しい紹介でした。野菜不足や塩分の取り過ぎは、生活習慣病の原因になるばかりでなく、ガンのリスクを高めることがはっきりしています。様々なリスクを考慮した上でバランスの良い食生活が大切だと考えています。





<参考文献>

「食品の調理・加工による 放射性核種の除去率」(原子力環境整備センター、1994年)
http://www.rwmc.or.jp/library/other/file/kankyo4_1.pdf
(公益財団法人 原子力環境整備促進・資金管理センターのサイト)
 → 食品中の放射性物質に関する過去の文献のまとめ

「食糧 その科学と技術」(食品総合研究所、2011年)
http://www.nfri.affrc.go.jp/guidance/kankobutu/pdf/kanko_sou50/50_total.pdf
 → 食品中の放射性物質に関する過去の文献のまとめ


Wahl R, Kallee E. Decontamination puts meat in a pickle. Nature. 1986 Sep 18-24;323(6085):208.
→ 食肉中の放射性物質除去(10%食塩水に数日~数週間)

Hisamatsu S, Takizawa Y, Abe T. Radionuclide contents of leafy vegetables; their reduction by cooking. J Radiat Res (Tokyo). 1988 Mar;29(1):110-8.
→葉物野菜からの放射性物質除去

Malek MA, Nakahara M, Nakamura R. Removal of 137Cs in Japanese catfish during preparation for consumption. J Radiat Res (Tokyo). 2004 Jun;45(2):309-17.
→淡水魚からの放射性物質除去

0 件のコメント:

コメントを投稿