一方、同時に検出された放射性セシウム(137Cs)も、検出量はずっと少なく(放射性ヨウ素の概ね1/10程度)、原発の近傍を除けば、現時点で心配する必要はほとんどないと思います。しかし半減期は30年と長く、放射性セシウムを蓄積する性質のある食品もあるので、今後しばらくは若干の注意が必要かもしれません。
菌類には放射性セシウムを蓄積する働きがある
菌類、つまり、キノコには放射性セシウムを蓄積する働きがあることが知られています。実際、大量の放射能漏れを起こしたチェルノブイリ原発の事故(1986年)の後、かなり長い間、ヨーロッパ産のキノコからは高い濃度の放射能(生のキノコで40000Bq/Kg、乾燥品では140000Bq/Kgのものも)が検出されていました。
日本では、輸入食品の放射能量は370Bq/Kg以下であることが基準ですが、最近になっても基準越えで輸入差し止めとなった例がでています(例えば2008年・ベラルーシからのアンズタケで450Bq/kg)。もちろん日本で市場に出回っている安価なキノコの多くは屋内での菌床栽培であり、放射能蓄積の心配はほとんどありません。実際、平時の調査(2000年秋)でも、菌床栽培のキノコ(シイタケ)は屋外のものに比べて、放射性セシウムの量が1/4程度であることが知られています(Ban-nai et al.2004)。もちろん、微量の放射性物質は平時でも検出されていて、どちらもほとんど0に近く健康には全く影響ないレベルです(2.0 Bq/Kg vs 0.5 Bq/Kgのような超微量同士の比較)。ただし、環境中の放射性セシウムが増えたとき、同じような傾向になると考えられるので、屋外、とりわけ野生のキノコには放射性セシウムが蓄積される可能性があります。
自己判断のキノコ狩りには注意が必要
チェルノブイリ事故での事例や、平時の日本での調査(Ban-nai et al., 2004)から考えると、放射性セシウムなどの放射性物質が野生のキノコに蓄積する可能性があります。もちろん、現時点ではどの程度の量になるのかわかりませんし、現時点での放出量で留まってくれれば、きのこ狩りに行って食べた位の量で、すぐにどうこうなるとは到底思えないので、気になる人は気をつけておいた方がよい、といった程度です。そもそも食用キノコと毒キノコの区別が難しいので、自己判断でのキノコ狩りは大変危険です。実際に、厚労省の統計によれば、毎年100~200人近くの食中毒をだしています。個人的には、5年くらい前に、知り合いの知り合いが採ってきたというキノコを食べ、頭痛と嘔吐でひどい目にあった経験があります(酒にも弱いので本当にキノコにあたったのかは不明ですが)。キノコは大好きなのですが、それ以来、自己判断(や素人の判断)で野生のキノコを食べるのは避けています。結局のところ、毒キノコの方がよほど危ない、という話もあるのですが、加えて、今年の秋は、場所によって残留放射能の問題も生じる可能性があるので、自己判断によるキノコ狩りは控えたほうがよいと思います。今後しばらくは経過を追っていきたいと思います(写真は毒キノコであるベニテングタケ、wikipediaより)。
いずれにしても、現在の放出量で沈静化してくれれば、原発のごく近傍を除けば、心配するほどの被爆量にはならないですし、(放射性ヨウ素の半減期は1週間程度なので)食品の問題も徐々に沈静化していくと思います。その点からも原発事故がこれ以上悪化しないことを祈っています。
参考:ベクレル(Bq)とは
放射能にはさほど詳しくないのですが、多少関連のある資格を持っているので一言。
1ベクレル(Bq)とは、「1秒間に原子核1つが崩壊して放射線を放つ」放射能のことであり、今回問題になっている放射性ヨウ素や放射性セシウムではガンマ線が出ます。1Bq/Kgとは1Kgの物体から1秒あたりに1つの原子核が崩壊している(放射線を出す)ことを意味しています。つまりごく微量です。これに対して、最近、新聞などで目にすることが多いシーベルト(Sv)とは、人体がどの程度の放射線を受けたかを示す被曝量の単位です。「~Bq/Kgの食品を~gほど~日間食べたときの被曝量は~Sv」といった具合に、計算して被曝量を評価します。
参考文献:
Ban-Nai T, Muramatsu Y, Yoshida S. Concentrations of 137Cs and 40K in mushrooms consumed in Japan and radiation dose as a result of their dietary intake. J Radiat Res. 2004 Jun;45(2):325-32.
Duff MC, Ramsey ML. Accumulation of radiocesium by mushrooms in the environment: a literature review. J Environ Radioact. 2008 Jun;99(6):912-32.
輸入食品違反事例(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/tp0130-1ae.html
→ 北東ヨーロッパ産のキノコから、時折基準越えの放射性セシウムが検出されて輸入差し止めになってます。基準というのが、370Bq/Kgと厳しめですし、そんな高級品は沢山食べるものでもないので、それこそ心配する必要のない値ですが・・・(「微量の放射線が体によい!?」と言われているラジウム温泉と同程度)。
毒キノコによる食中毒発生状況(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/syouhisya/101022-2.html
→ 死者は数名のみですが、毎年100~200人の中毒者をだしています。昨年はとくに数が多かったようです。
追記(11/03/27):
21日の時点で「放射性セシウム(137Cs)も、検出量はずっと少なく」と書きましたが、食品でもセシウムの放射能量が基準越えになった例も出ており、原発に近い地域では、深刻な土壌汚染も起きているようです。「チェルノブイリ事故の例と比べると漏れ出した放射性物質の量はずっと少なく」と書きましたが、放射性セシウムによる土壌汚染では同程度の地域も出ているようです。しかもトラブルを起こした原発が3機(+使用済み燃料プール)もあり、放射性物質の漏洩は未だ続いています。おまけにプルトニウムの混じった燃料(3号機)も使われているので、予断は禁物です。パニックを起こす必要はありませんが、まだまだ楽観できる状況ではないと思います。
追記(11/04/05):
厚生労働省の報道資料によると、ついに原木栽培(屋外)のシイタケから規制値を超えた放射性セシウムが検出されてしまいました(4/1採取)。過去の文献からも推測できる通り、菌床栽培(屋内)は無事です。基準値というのは今回の事故を受けての暫定基準(放射性セシウムは500Bq/Kg)で、これまで用いてきた輸入食品のための暫定基準(370Bq/Kg)よりも緩いことに注意してください。野生のキノコでの蓄積はこれから徐々に進むはずです。残念ですが、状況がはっきりするまでは、南東北~関東にかけては山林に入ってのキノコ狩りは控えた方が良いと思います。
参考:厚生労働省>緊急モニタリング検査結果について(福島県・野菜)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017sys-att/2r98520000017t43.pdf
追記(11/07/03):
地域限定になりますが、野生のキノコ同様に野生の淡水魚にも注意が必要です(養殖物は大丈夫)。
「放射能と淡水魚」にまとめましたので興味のある方はご参照ください。
放射能とキノコの話題です。 野生キノコの放射能の問題は現実のものとなり、北海道を除く東日本では野生のキノコには注意が必要です。 「菌類と放射能2(野生のキノコと栽培キノコ)」 野生のキノコと栽培キノコについて近況をまとめた続編です。 「菌類と放射能3(菌床キノコの近況)」菌床キノコからも暫定基準値超えが出てしまいました。菌床培地の問題と考えられるので、十分に防げると考えています。 あわせてこちらの記事もご参照ください。 |
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