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2011年12月29日木曜日

旨味とアミノ酸

味覚は「甘味、酸味、塩味、苦味、旨味」の基本五味に分けることができると言われています。そして、舌の表面には、それぞれの味に反応するセンサーが次々と見つかっています。基本五味の中でも、和食では旨味が重視されていて、なくてはならない存在に思えます。かつて、欧米(米・英)では、旨味が基本味であることがなかなか受け入れられなかったという事情さえあって、英語でも旨味は「umami」と呼ばれる存在です。

旨味のもとはアミノ酸
旨味成分の元は、グルタミン酸やイノシン酸といったアミノ酸です。これをつきとめたのは、理化学研究所の創設者の一人である池田菊苗で1907年のことでした。彼は、旨味の元としてグルタミン酸の単離に成功し、後の「味の素」となるうま味調味料(化学調味料)の商品化につなげました。その後、アジア圏では調味料としてのグルタミン酸が爆発的に普及し、1960年代には、一般家庭でも「味の素をごはんにふりかけて食べるといった流行さえ引き起こしてしまった」そうです。実は、このときは「グルタミン酸を食べると頭に良い」などという噂まで広まったことがあったそうなのですが、噂の発端は、グルタミン酸の脳への作用を研究していた慶応大学の林教授が、木々高太郎というペンネームの作家であった故に、「グルタミン酸は頭によい」という言説を面白おかしく一般書で紹介したことに端を発していると言われています。なお、食事で摂ったアミノ酸が直接脳の神経細胞に作用することはないため、今日ではこの噂は否定されています。一方、舌の表面にはグルタミン酸などのアミノ酸に対するセンサーがあることが見つかり、確かに旨味は基本味の1つであることが実証されています。食品中に含まれるグルタミン酸が、舌表面の味蕾(みらい)にあるセンサー(「グルタミン酸受容体」)にくっつくことで、細胞が興奮し、味覚を伝える神経をとって、その食品に「旨味」が含まれていることを脳に伝えるのです。

グルタミン酸は頭痛を起こす?という説もあったが…
「グルタミン酸を食べると頭によい」というブームがあったという話を初めて知った時、個人的にはとても驚きました。「グルタミン酸を食べると頭に悪い(かもしれない)」という噂をしばしば聞いたことがあったからです。1960年代の日本では、グルタミン酸ナトリウムをご飯にふりかけるまでのブームが起きていた一方、米国では過剰なグルタミン酸添加が、頭痛や顔の紅潮などの不快な症状を起こすのではないかと疑われていたのです。当時、在米の中華料理店で多くのグルタミン酸が使われていたので、「中華料理店症候群(Chinese Restaurant Syndrome)」と呼ばれていました。脳への興奮作用を持つグルタミン酸を過剰に摂取させることで神経細胞に悪影響を与える可能性が危惧され、一時は摂取限度が設けられたほどでした。しかし、その後の大規模な調査の結果、統計的に明らかな影響は認められず、「中華料理店症候群」とグルタミン酸の関連は否定されました。どうやら酒や脂っこい物を食べ過ぎたことによる非特異的な効果だったようです[6, 7]。しかし、その後も過剰なグルタミン酸の摂取は、網膜に悪い、という研究結果も出ており、まったく無制限に食べてよいかどうかは議論が分かれているようです。もちろんグルタミン酸は食品中に含まれる旨味成分であり、適量の摂取は何の問題もありません。どんなことにもいえますが、過ぎたるはなお及ばざるが如し、ということです。

うま味調味料との適切な付き合い!?
食品にグルタミン酸を少々ふりかける程度では大した毒性がないのは間違いなさそうです。でも料理を愛好するものとしては、グルタミン酸の過剰な添加は、味を単調にしてしまう恐れがあり、一緒に食べている他のものの味をわからなくしてしまうのではないかと考えています。うちでは、醤油にむやみに混ぜる、などは避けています。地中海料理全般として、素材の味を活かすのが売りなこともあって、できれば天然の肉、魚、野菜からブロード(出汁)をとりたいと考えています。様々な食材から来る複雑な味はとても単一のアミノ酸で置き換えのきくものではありません。しかし、いつもいつもブロード(出汁)をとるのは大変で、特に仕事がある平日にはとうていできることではありません。そんなこともあって、うちでは、特別な場合でない限り、スープやリゾットに用いるブロードとしては、市販のブイヨンを活用しています。入れすぎるといかにも調味料を足した!という味になってしまうので、気持ち少なめに、使うように心がけています。天然と素材と組み合わせると、複雑な旨味が活かせてとてもおいしいです。余裕があるときは自家製のブロード、急いでいるときには市販のブイヨンを使うといった適度な関係がよいのではないかと思っています。

参考資料:
藤田一郎, 脳ブームの迷信. 2009, 東京: 飛鳥新社.
Geha, R.S., et al., Review of alleged reaction to monosodium glutamate and outcome of a multicenter double-blind placebo-controlled study. J Nutr, 2000. 130(4S Suppl): p. 1058S-62S.
Walker, R. and J.R. Lupien, The safety evaluation of monosodium glutamate. J Nutr, 2000. 130(4S Suppl): p. 1049S-52S.
Ohguro, H., et al., A high dietary intake of sodium glutamate as flavoring (ajinomoto) causes gross changes in retinal morphology and function. Exp Eye Res, 2002. 75(3): p. 307-15.

2011年11月27日日曜日

食品中の放射能(How)~どのように調理すればよいか~

放射能を少なくする調理法です。核実験やチェルノブイリのときを参考に、食品中に含まれる放射性物質を除去する方法が研究されています。そこから得られた教訓は次の3つ。




食材からの放射性物質を少なくする3原則

「洗う」
 →葉物野菜(特に新たな放射性物質放出があったとき)

「除く」
 →魚では、エラ、内臓、骨等のアラを除く
 →野菜では、へたや皮を除く

「しみ出させる」
 →野菜・魚では、茹でる、マリネにする(肉でも有効)
 →ヨーグルトは水切りに


放射性セシウムや放射性ヨウ素が水に溶けやすい性質を持つ(形で拡散した)ことを考えれば、とてもわかりやすいです(セシウムは、土やコンクリと結合して不溶化する性質もあります)。


洗う:食材をよく洗う

葉物野菜では、洗うだけで3割強の放射性セシウム、約2割の放射性ヨウ素を除去できると言われています(茹でこぼしによりさらに減らせます)。これは葉の表面に付着した放射性物質に対するものなので、放射性降下物(フォールアウト)が問題になる時期に有効です。ホウレンソウなどの葉物野菜を中心に今回の原発事故では3-4月に問題になりました。一方、土壌からの吸収が問題になる穀類の場合、内部に取り込まれてしまっているので必ずしも有効ではありません。葉物野菜に関しても、新たな事態に進行しない限り、放射性降下物を心配する必要はないと考えていますが、表面に付着した放射性物質を含む土埃を取り去るのには有効です。公表されている食品中の放射能に関する検査結果によれば、一般的な野菜は多くがND(検出限界以下)となっていますが、これらの検査結果は洗浄後の値ですので、洗い残しには注意が必要です。

肉や魚では、食材を洗うのはそれほど有効ではありません。そもそも付着した放射性降下物を落とすのに有効な方法だからです。魚の場合、洗うだけで除去できる放射性物質の量は1割以下(5%程度)ですが、もちろん洗わないより洗うほうがましなのはいうまでもありません。


→うちでは原発事故以来、野菜を以前より強めに洗い、土が残らないように気をつけています。キノコやハーブ(特にバジル)を洗わずに使うことを薦めるレシピも多いですが、汚れや残留農薬のこともあるので事故以前から水洗いを心がけています。魚介類は、食中毒防止もあって(特に生で食べるとき)、元から水道水をつかって念入りに洗っています。




除く:放射性物質がつきやすい場所を取り除く

魚では、エラ、内臓、骨等のアラを取り除くのが有効です。放射性セシウムは全身の筋肉に分布する特徴があるので、特に内臓に集中することはないと思いますが、他の核種が蓄積する可能性があります。特に代謝を行う肝臓や老廃物の排出を行う腎臓には要注意です。
骨髄への損傷(→白血病)が心配されている放射性ストロンチウムは、骨に蓄積します。特に魚の骨を取り除けば、放射性ストロンチウムの多くを取り除くことができます。ただし、原発に批判的な環境保護団体の調査でも、スーパーに出回っている魚介類(海水魚)では放射性セシウムで最大60Bq/Kgにとどまっているので(2011年11月現在)、放出比率の少ない放射性ストロンチウムについては今のところ過敏になる必要はないと考えています(原発周辺を除く)。

野菜では、野菜の塵がたまりやすい場所、へたや皮、凹んだ場所などを除くと、表面に固着した放射性物質を取り除くことができます。「洗う」同様に、放射性降下物の恐れがほとんどない現状では、それほど有効ではありませんが(+それほど過敏になる必要はない)、残留農薬などの面からも有効です。なお、家庭で行う処置ではないですが、放射性セシウムは糠などに蓄積していることが知られており、コメでは、脱穀、精米することで放射性セシウムを半減(ストロンチウムは半減以上)させることができ、コメをとぐ(洗う)ことでさらに減らすことができます。麦などの穀類も製粉の時点で放射性セシウムが2割以上減少するようです。


→うちでは、魚の産地(水揚げ港が太平洋側)によって、内臓・骨・頭などのアラを取り除いてから調理しています(いつも厳密にやっているわけではないですが)。野菜や果物でもピーマンのへた、果物の芯の処理に気をつけたり、産地(東日本)に応じて、キュウリやトマトの皮を剥くなどの処理をしたりしています。実は海外のレシピでは、キュウリやトマト、ナスの皮を剥くことが多いのですが、いままで省略していたのをきちんとやるようになった、という事情もあります。コメについては、調理法の関係で無洗米を主に使っていますが、普通に炊くときには、数回といでからいただいています。


しみ出させる:漬ける、茹でるなどでしみ出させる

葉物野菜は、茹でることによって、固着した放射性物質を半減させることができます。「洗う+茹でる」によって、三分の二近くの放射性セシウム(そして六割近くの放射性ヨウ素)を除去できることになります(放射性降下物対策)。長時間浸け込むことで、放射性物質をしみ出させるのはさらに有効で、キュウリ(小型)では、ピクルス(酢漬け)にすることで放射性セシウムの九割近くが除去できたようです。キノコには多くの放射性セシウムが蓄積してしまうことが知られていますが、チェルノブイリ事故以来、東欧~中欧ではキノコに含まれる放射能が問題になっていますが、酢漬け(ピクルス)にするなどして放射性セシウムを除去した上で食べられているようです。もちろんピクルス液を飲んではだめです。このように、放射性セシウムは水に溶けやすいため、脂質にはほとんど含まれません(ここがダイオキシンなどと違うところ)。ですから、バターは安心ですし、ヨーグルトも水切りの処置をすれば、乳清(下に落ちる水分)の方へ放射性セシウムの多くがうつります。

肉や魚もマリネや塩漬けが有効です(おそらく茹でこぼしも)。チェルノブイリ事故直後にNature誌に掲載された論文(Wahl et al., 1986)によると、肉のブロックを10%食塩水に数週間から数日浸け込むことで、放射性セシウムを大幅に減らすことができたことが報告されています。家庭でこのような処置をするのは現実的ではありませんが、おそらく魚のマリネ塩鱈(リンクは簡易版のレシピ)でも、水溶性のセシウムはマリネ液や戻し汁の方へ移動していくはずです。漬け時間が短い場合や冷凍処理をしない場合、どの程度抜けるのは未知数ですが、プラスに働くことは間違いありません。

注意しないといけないのは、しみ出すのは、放射性物質や残留農薬だけではないことです。水溶性のビタミンや旨味成分も抜けてしまう上、塩水漬けの場合、塩分のとりすぎにも注意が必要です。


→うちでは、原発事故以前からホウレンソウは必ず茹でてから使っています(硝酸塩の問題があるため)。元からですが、魚はマリネや塩漬けにしてからいただくことが多いです。ただ、「しみ出させる」の処理は栄養分が抜けてしまうこともあり、いつもやっている訳ではありません。魚介類については、内臓や骨を食べ過ぎないようにしている程度(他の汚染物質の心配もあるので)で、原発周辺以外は概ね安全と考えて、適度に消費しています。



以上、3つのポイントの詳しい紹介でした。野菜不足や塩分の取り過ぎは、生活習慣病の原因になるばかりでなく、ガンのリスクを高めることがはっきりしています。様々なリスクを考慮した上でバランスの良い食生活が大切だと考えています。





<参考文献>

「食品の調理・加工による 放射性核種の除去率」(原子力環境整備センター、1994年)
http://www.rwmc.or.jp/library/other/file/kankyo4_1.pdf
(公益財団法人 原子力環境整備促進・資金管理センターのサイト)
 → 食品中の放射性物質に関する過去の文献のまとめ

「食糧 その科学と技術」(食品総合研究所、2011年)
http://www.nfri.affrc.go.jp/guidance/kankobutu/pdf/kanko_sou50/50_total.pdf
 → 食品中の放射性物質に関する過去の文献のまとめ


Wahl R, Kallee E. Decontamination puts meat in a pickle. Nature. 1986 Sep 18-24;323(6085):208.
→ 食肉中の放射性物質除去(10%食塩水に数日~数週間)

Hisamatsu S, Takizawa Y, Abe T. Radionuclide contents of leafy vegetables; their reduction by cooking. J Radiat Res (Tokyo). 1988 Mar;29(1):110-8.
→葉物野菜からの放射性物質除去

Malek MA, Nakahara M, Nakamura R. Removal of 137Cs in Japanese catfish during preparation for consumption. J Radiat Res (Tokyo). 2004 Jun;45(2):309-17.
→淡水魚からの放射性物質除去

2011年11月3日木曜日

食品中の放射能(What)~何に気を付けなければいけないか~

放射能に注意した方がよいと考えられる食材の一覧です。これまでに暫定規制値超え(福島原発・チェルノブイリ原発事故)のあった例をリストして考察して見ました。個人的には、過度に気にし過ぎる必要はないけれど、ポイントをおさえて過度の被曝をしないように気をつける必要があると考えています。




これまでの傾向から、栽培物 or 養殖物は、多くが大丈夫で、自分で採取するような野生のものが要注意と考えています。

・野生のキノコ → 東日本全域
・野生の獣肉 → 東日本全域
・養殖でない淡水魚 → 原発周辺+ホットスポット周辺
・原発周辺の魚介類 → 底生魚・海藻(原発周辺)
・常緑樹 → 東日本全域


栽培品では、穀物(麦、米)、常緑樹の果実(柑橘)・葉(茶葉)、ナッツ類(栗など)がセシウム吸収をしやすいようなので、モニタリング調査の結果に注意する必要がありそうです。


これまでの緊急モニタリング調査(放射性セシウム500Bq/Kg)やチェルノブイル事故時の超過事例(放射性セシウム370Bq/Kg以上)を元に、何に気をつけたらいいのかを考えていきたいと思います。
まず、緊急モニタリング調査で暫定基準値超えのあったものは次のとおりです(11月末時点)。なお、暫定基準値超えのあった食品の全体的な傾向としては、検査結果のばらつきが非常に大きいということがあります。暫定基準値超えがでた地域であっても、放射性セシウムがほとんど出ないこともあり、値はかなり上下します。そういった食品では検査頻度の増加が望まれます。



キノコ:原木シイタケ、原木なめこ、原木くりたけ、菌床シイタケ(1例のみ)
野生キノコ(菌根菌):アミタケ、マイタケ、コウタケ、ハツタケ、チチタケ
野生キノコ(腐生菌):ハタケシメジ、チャナメツムタケ

→菌床キノコは、基準超えは1例のみ(10月末現在)で、培地に気をつけてもらえれば今のところ大丈夫そうです。野生きのこは、極端に高い値(9/1福島県棚倉町チチタケ28000Bq/Kg)が出ています。基準値超が出る地域もかなりばらついていて、原発に比較的近い場所でもあまり出ていないサンプルもある一方、かなり離れた場所(10/26長野県佐久市のチャナメツムタケ1320Bq/Kg)でも基準値超が出ています。菌根菌に比べて腐生菌はセシウム吸収が少なめという話もありましたが、現実には基準値超が出ています。放射性セシウムの値が極端に高くなることもあり、どこで高くなるのかもはっきりしないので、総じて野生のキノコには注意が必要です。



山菜類:くさそてつ(こごみ)、たけのこ

→成長が速い植物や土壌表層に根を張る植物(キノコも同様)はセシウムなどを取り込みやすいと考えられます。特にモニタリングが行われていないような野生の山菜狩りには特に注意が必要です。



獣肉:イノシシ、シカ、ツキノワグマ
畜肉:牛肉

→牛肉は、3月の事故当時に屋外に出ていた稲わらを牛に与えてしまったのが主な原因です。このため地域によらず基準値超が出てしまったのですが、餌に気をつけていただければ大丈夫そうです。一方、野生の動物は放射能の少ない餌を選ぶわけではないので、総じて高い値になります。広範囲に注意が必要です。



淡水魚:ヤマメ、アユ、ワカサギ、ホンモロコ、ウグイ、イワナ

→ 福島、群馬の山間部で暫定基準値超の淡水魚が見つかっています。「放射能と淡水魚」で取り上げたように、淡水魚は水中の塩類(セシウム)を取り込みやすい上、苔などの餌に多くのセシウムが含まれている可能性があります。チェルノブイリの例から考えると、特に湖沼などの閉鎖水域ではセシウムが循環してしまうため、問題が長期化してしまう恐れが考えられます。モニタリング調査が万全で無い限り、野生の淡水魚には注意が必要です。一方、餌や水に気をつけていれば養殖の淡水魚は安全といえ、今のところ極端な値を出した例はなさそうです。



原発周辺(福島沖)の魚介類:カタクチイワシ、コウナゴ、エゾイソアイナメ、アイナメ、コモンカスベ(エイ)、イシガレイ、マコガレイ、ウスメバル、シロメバル、ナメタガレイ、クロソイ、スズキ、ヒラメ、キタムラサキウニ、ホッキガイ、モクズガニ、ムラサキイガイ
原発周辺(福島沖)の海藻:アラメ、ワカメ

→モニタリング調査で暫定基準値超えが出ているのは、ほとんどが原発周辺(福島沖)で、茨城・宮城沖になると平均値はかなり低くなります。カタクチイワシ、コウナゴは汚染水流出のあった初期(4月)で、海水中のセシウム濃度がすっかり低くなった現在は収まっているようです。海底土壌の調査では沿岸でセシウムが高い傾向があり、実際、アイナメやカレイなど底の方にいる肉食の魚で高い傾向があります。同じ理由で海藻類にも注意が必要です。いまのところ市場に出回っている魚は原発周辺で漁獲されたものではないはずなので、そう心配はないと考えています(さらに一歩前進で、今後は、表示義務が水揚げ港ではなく漁場で表示されるようになるそうです)。ただし、魚種によって数十bq/Kg位の放射性セシウムを含む魚がかなり広域に分布しているようです。いずれにせよ、(わざわざ警戒区域に入って魚釣りをする人はいないとは思いますが)原発周辺の海域で釣りをして食べたりするのは避けたほうがよいと思います。



常緑樹:ユズ、イチジク、ビワ、茶葉

→ チェルノブイリ事故の際も、ローレル(月桂樹)やローズマリーなど常緑のハーブのセシウム汚染が問題になりました。事故時にあった葉についたセシウムを取り込んでしまう可能性も指摘されています。ただし、ハーブ類もそうですが、茶葉も乾燥の影響もあります。乾燥させると重量比ではセシウムが濃縮することになるため、大きな値が出やすくなります。静岡茶でも暫定基準値超が問題になりましたが、静岡だけが極端にセシウムが降下したわけではなく、むしろ空間放射線量や降下量のデータを見るかぎり比較的少なかったと考えられます(東京の1/10程度)。常緑樹に関しては、来年どうなるか(土壌からの取り込みが少ないのならば改善するはず)注視が必要です。



栗、なたね、小麦(穀類)、コメ、ザクロ

→栗、菜種、穀物(特に麦類)は放射性セシウムの影響を受けやすいと言われています。チェルノブイリ事故の時にもナッツ類(ヘーゼルナッツなど)や小麦の汚染が問題になりました。コメは土壌セシウム濃度が高かったエリアに限られており(*)、麦類よりはセシウム吸収が少ないと考えられます。ただし、コメについては、検査頻度が多かったお陰でいろいろ分かった面があり、セシウムを比較的吸収しやすいとされる他の穀類でも検査頻度を増やしたほうがいいのではないかと考えています。コメに関しては、白米にするとさらにセシウム濃度は減少するため、ほとんどのエリアで安全であると考えています。



他にも3月~4月の事故直後はホウレンソウなどの葉物野菜や牛乳、小魚を中心に暫定基準値超えがありました。こちらは主に、降り注いだセシウムやヨウ素が葉についたため、と溢れ出した汚染水につかってしまった海面付近の小魚たちが影響を受けたものと考えられます。現時点では、原発周辺以外でのセシウムの降下はほぼ収まっているので、葉物野菜については、特に区別して心配する必要はないと考えられます。



チェルノブイリ事故では以下のようなものが、輸入品の放射性セシウム基準値370Bq/Kgを超過しました。事故(1986年)の数年以内の例が大半ですが、キノコやベリー類(ジャム)のように、最近になっても超過事例が報告されています。東欧・中欧では未だにキノコ狩りに注意が必要なエリアが広がっているようです。

キノコ:カノシタ、あんずたけ、くろらっぱたけ、ヤマドリタケ(←ポルチーニ、乾燥品)
ハーブ:月桂樹葉、セージ、タイム、ヒースの花、カモミール、ローズヒップ、リンデン、西洋オトギリソウ、ジュニパーベリー、スイカズラ、ダンデリオン
乾燥ぜんまい(シダ)、黒すぐり
ナッツ類:ヘーゼルナッツ、アーモンド
獣肉・畜肉:牛胃、トナカイ、ビーフ・エキストラクト

日本にきた輸入品ということで、若干偏りはあると思いますが、やはり、傾向は一緒で、野生のキノコ、獣肉、常緑樹(ハーブ類)に気をつけたほうがいいことがわかります。ここでもハーブ類は乾燥時に濃縮する上に量を使わないので、極端に値が高くなければ気にしすぎる必要はないと思います。うちでも、事故後25年が経ち、検査体制も整い、市場に出回るほとんどの商品は輸入規制を満たしているだろうと考えて、欧州地域からのハーブ類(ローズマリーはアルバニア、ローレルはトルコ産を使用)は特に気にせずに使っています。



以上、これまでの傾向をまとめると(冒頭のまとめとかぶりますが)、

・野生のキノコ → 東日本全域
・野生の獣肉 → 東日本全域
・養殖でない淡水魚 → 原発周辺+ホットスポット周辺
・原発周辺の魚介類 → 底生魚・海藻(市場には出まわらず)
・常緑樹 → 原発周辺+ホットスポット周辺


に注意が必要ということです。基本的にこれらの食材は市場にはほとんど出まわっておらず、自分で採取するときに注意が必要だと考えています。栽培品では、麦類、常緑樹の果実(柑橘)・葉(茶葉)、ナッツ類(栗など)がセシウム吸収をしやすいようなので、モニタリング調査の結果に注意する必要がありそうです。なお、「Why」の記事で書いたとおり、暫定基準値を少し越えた程度の食品を少し位食べた所で、(少なくとも大人では)深刻な被曝にはなりません。心配なのでとりあえず控える or 大好物だから少しくらいはOK、などといった判断は、最終的にはご自身でお願いします。個人的には、少なくとも未成年(+若い人)は十分に気をつけたほうがよいと考えています。

うちのブログは、日々の食事日記程度の内容ですが(笑)、「食と健康」のコーナー、こと原発事故の話題に関しては、論文等や公式資料等を参考にしながら、持てる知識や経験を総動員して、客観的かつ役に立つ情報発信をできるように努めていきます。


(*)お米からの放射性セシウム検出について(11/12/03追記)
他の食品に比べると、多くの検査を行なってきたコメですが、その「安全性が確認された」後に、暫定規制値超え(500Bq)がでてしまいました。これまで(11月末の時点)に規制値超が検出されたのは、概ね航空モニタリングで30万Bq/平方m以上と、放射性セシウム濃度がかなり高いと予測されたエリアに一致するようです。土壌の「Bq/平方m→Bq/Kg(農水省調査)」は65で割ればよいと言われていて、30万/65 ≒ 4600 Bq/Kgとなります。もともと5000Bq/Kg以上では玄米が暫定基準値超えになる可能性があるとされていたため(農水省の規制)、概ねこの値に近いと言えます。ですから、土壌のセシウム濃度がそこまで高くないエリアでは、概ね大丈夫だと考えられるのですが、今回の教訓は、検査の値がかなりばらつくということです。今回は、事前の検査の時に(最大)100Bq/Kg台超えを出していたエリアから、暫定規制値超えが見つかっています。おそらく個々の生育条件や水田の状態によってばらついたのだと思いますが、土壌調査や航空モニタリングのデータを参考にしつつ、どれくらい安全率をとればいいかの参考になりそうです。




参考資料:

農林水産物モニタリング情報(福島県)
http://www.new-fukushima.jp/monitoring.php

県内産きのこの放射性物質測定結果(長野県)
http://www.pref.nagano.lg.jp/nousei/engei/kensa/kensa-kinoko.htm#kinoko3

県産きのこ・わさびの放射性物質モニタリング検査結果(栃木)
http://www.pref.tochigi.lg.jp/kinkyu/d07/shiitake1.html

県内農産物・畜産物への影響について(茨城)
http://www.pref.ibaraki.jp/important2/20110311eq/nousanbutsu/

放射能暫定限度を超える輸入食品の発見について(第34報)(厚労省)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/h1108-2.html
→チェルノブイリ関係で東欧・中欧産が中心です。

食品中の放射能(日本分析センター)
http://search.kankyo-hoshano.go.jp/food/servlet/food_in?
→福島原発事故前の傾向を見ることができます。ほとんどが放射性セシウム1bq/Kg以下で、現在は平時ではないことを思い知らされます。

(11/11/27、11/12/03)穀類に関する情報を追記。

放射能と菌類 - 3 ~菌床キノコの近況~

キノコと放射能の問題に関する続編です(「放射能と菌類」「放射能と菌類2」)。

栽培キノコであっても、原木栽培や露地栽培では地域によっては暫定基準値を超える放射性セシウムが検出される例が出ているものの(おそらく原木や培地が雨に打たれたものと考えられます)、屋内の菌床栽培キノコについては、セシウムの値は概ね低く、暫定基準値を超える例はありませんでした。ただ、8月頃より100 Bq/Kgを超える菌床シイタケがちらほらと出始めていて、少々気になっておりました。

しかし、10月29日発表の緊急時モニタリング検査(福島県)によると、ついに菌床栽培のキノコ(シイタケ)から暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されてしまいました(10月27日採取の施設栽培菌床シイタケで850Bq/Kg)。屋内の菌床栽培ということなので、おそらくは培地に使うオガクズなどが放射性セシウムに汚染されていたのだと思います。現時点では基準値超えは1件のみで、培地そのものが汚染されていたのか(オガクズ・米ヌカなど)、3月の放射性物質飛散時に培地が屋外にあって汚染されてしまっていたのか、はっきりしません。これまでのところ、菌床栽培で100 Bq/Kg超えの例(8月4日採取で2件)も含めても、全て原発から比較的近い地域ですので、後者の可能性もあると考えています。しかし、西日本で菌床培地から放射性セシウムを検出した例があって、前者の可能性も十分に注意する必要がありそうです。今回は原発から比較的近い地域での検出でしたが、汚染されたオガクズや米ヌカが原因であれば、原発から全く離れた地域の菌床栽培でも同じ問題が起こりえます。反対に、そうであれば汚染された可能性のある培地を使いさえしなければ、完全に防げるはずです。

個人的には、キノコは大好物で頻繁に食べているので、とても気がかりなニュースです。牛肉の時のようになる前に、ぜひ気をつけていただきたいと思います(頼もしいことにすでに放射能検査をロットごとに行なっている業者もあるようです)。



参考:
緊急時モニタリング検査(福島県)10月29日発表
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/mon231025-28mv.pdf

緊急時モニタリング検査(福島県)8月6日発表
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/mon230804mv.pdf

2011年10月21日金曜日

放射能と菌類 - 2 ~野生のキノコと栽培キノコをめぐる近況~

福島原発の事故発生から既に7ヶ月が経過しました。
3月21日「放射能と菌類」では野生のキノコは要注意なのではないか、という記事を投稿させて頂きました。(土壌汚染の程度などについて)むしろ読みが甘かった面もあったとは思うのですが、野生きのこでは最高28000Bq/Kg(チチタケ)に及ぶ放射性セシウムが検出された例もあるなど、各地で暫定基準値を超過した野生キノコが見つかっています。

やはり野生のキノコには注意が必要
キノコは、地表近くに菌糸を伸ばすという性質も影響して、放射性セシウムを取り込みやすい性質があります。特に、樹木の根から養分を取る「菌根菌」は、落ち葉や枯木などに生える「腐生菌」よりも放射性セシウムを取り込みやすい、ともいわれているように、確かに福島県の緊急時モニタリング検査で見つかったチチタケも菌根菌の仲間です。しかし、放射性セシウムの値は場所やキノコの種類によってまちまちで、数千Bq/Kg級のセシウムを含むキノコが各地で見つかっている一方、比較的近い地域であっても、かなり低い値で済んでいる場合もあります。おそらく局所的なホットスポットのようになった場所で高い値がでているのではないかと思います。高濃度の放射性セシウムを含むキノコがどこに潜んでいるのか、現時点でははっきりとはわからないので、ある程度の放射性セシウムが降下した地域では野生のキノコには十分に注意したほうがよさそうです。放射性セシウムの降下量は、文科省が公表している航空モニタリングがみやすいです。

文部科学省放射線量等分布マップ拡大サイト(航空モニタリング結果)
http://ramap.jaea.go.jp/map/

緊急時モニタリング検査(福島県)H23. 9. 3公表
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/mon230831-0902mv.pdf




菌床栽培のキノコは今のところ大丈夫そうなのだが…
栽培キノコの中でも原木キノコの一部では放射性セシウム超過の事例が報告されています。どうやら露地、ハウス関係なく出ているようです。空気を介して飛散したか、栽培時に原木が濡れたのか、現時点でははっきりしていません。一方、施設栽培の中でも菌床栽培では、今のところ暫定基準値超過は出ていないようです。キノコ好きのgatto e topoはひとまず安心しているのですが、8月くらいから菌床栽培のキノコでも放射性セシウム合計が100Bq/kgを超える事例がちらほら出てきました。今のところ大きく問題になるような値は出ていませんが、温度管理をするような室内で栽培されたキノコがなぜ?と思っていました。どうやら培地に使うオガクズや米ヌカが原因の可能性がありそうです。すでに徳島でオガクズを用いた菌床から放射性セシウムが検出されています(朝日新聞8月17日)。原発近隣地域の木材を使ったオガクズだったようです。それを受けて林野庁では菌床では150Bq/Kg以下、という基準を暫定的に設けました。シイタケでは最大3倍程度の濃縮が予測されるが、それでもキノコ自体は500Bq/Kgになるという計算から求められた基準値のようです。暫定基準値(セシウム500Bq/Kg)の食品を少し位食べてしまった位では心配する必要ないとはいうものの、工夫次第で減らせるものは何とか減らして欲しいところ、その観点からは菌床150Bq/Kgという基準はいささか高いように思います。被曝は少ないには越したことはないからです。木材でも皮に近い部分は(食用キノコの培地には)使わない、など工夫することで何とか菌床のベクレル数を下げて欲しいと考えています。林野庁でも「平成23年度内に改めて基準を設定する予定」とのことなので、キノコの菌床培地に関しては、より厳しい基準を採用して欲しいと願っています(キノコ自体が50Bq/Kg以下に収まると考えられる15Bq/Kg位に)。今のところ、モニタリング調査の結果を見るかぎり、菌床栽培のキノコは概ね大丈夫といえますが、これを万全にするためにも菌床の安全確保には力を入れて欲しいところです。


林野庁
東日本大震災について~きのこ原木及び菌床用培地の当面の指標値設定に関するご質問と回答について~
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/tokuyou/111021.html








2011年10月16日日曜日

食品中の放射能(Why)~なぜ気を付けなければいけないか~

福島原発の事故以来、食品中に含まれているかもしれない放射能の問題がクローズアップされています。今回はどうして気を付けなければいけないか、ということについて、Gatto e Topoがどのように考えているかを紹介します。食品中の放射能について、モニタリング調査の結果を見るかぎり、一部の地域から産出された野生のキノコや淡水魚、獣肉等を除いて、市場に出回っている日常的な生鮮食品はほぼ問題なさそうです。放射能の問題は、過度に恐れすぎる必要はなく、魚に含まれる水銀、野菜の残留農薬、穀物のカビといった数あるリスクのうちの1つとしてバランスよく注意する必要があると考えています(*)。しかし、低線量の内部被曝に関しては、はっきりとわかっていないことも多いので、基本的には被曝は少なければ少ないほどよいと考えています。





今回の要点は次の通りで、食についてはそこまで危険ではない、と考えている根拠はこちらです。

1. モニタリング調査が行われている
2. 暫定基準値前後なら多少食べても深刻な被曝にはならない
3. セシウム以外の核種の汚染は少なそう


しかし、それでもなお気をつけたほうがよいとする根拠はこちら。

1. 医療被曝による過剰発がんを指摘する報告もある
2. 中等度のセシウム土壌汚染で過剰発がんを示唆する報告もある
3. わからないことはできるだけ気をつけたほうがいい


食品に関して言えば、土壌や食品のモニタリング調査の気をつけながら、適度に注意をしながら、偏りのない食事をしていけば大丈夫だと考えています。


まずは、現時点で食についてそこまで危険ではない、と考えている根拠について詳しく紹介していきます。

「モニタリング調査が行われている」
原発事故以来、様々な食品を対象に放射性ヨウ素と放射性セシウムの調査が行われています。事故直後に予想したように野生のキノコなど、いくつかの食材では高濃度の放射性セシウム(数千~数万Bq/Kg)が検出されていますが、それ以外の野菜や魚介類(原発周辺を除く海水魚)では値はかなり落ち着き、不検出(~数Bq)が多くなっています。ことキュウリやトマトなどの野菜類では、かなりの土壌汚染が予測される場所であっても値は低く、土壌から野菜へのセシウムの移行はかなり低いと考えられます。現時点でモニタリング調査の頻度が十分とはいえず、特にセシウム・ヨウ素以外の核種についての調査が少ないのが不安要素ですが、これまでの実績値を考えると現時点で、日常的に食べる食材から極端に高い放射性物質を含むものにあたる可能性は低そうです。ただし、野生のキノコや野生の獣肉、淡水魚、常緑樹の実や葉などからは注意すべき値(数万~数千Bq)が出ているので、(少なくとも北海道を除く東日本では)自分で採取したりするのは控えた方がよさそうです。


有志の方のまとめサイトから、自治体・国の調査結果を概観することができます。
「全国の食品の放射能調査データ」(http://atmc.jp/food/
  →有志の方のサイト、水道水や空間放射線量のまとめも。
「食品の放射能検査データ」(http://yasaikensa.cloudapp.net/
  → (財)食品流通構造改善促進機構の有志の方のサイト




「暫定基準値前後なら多少食べても深刻な被曝にはならない」
放射性物質は摂取しないに越したことはないのですが、暫定基準値を少し超えるくらいの放射性セシウムを含む食品を誤って食べてしまったとしても、人生を悲観する必要はありません。過去の研究から、放射性物質ごとに「実効線量係数」という値が計算されていて、ベクレル数(放射能の強さ)に実効線量係数をかけると、その物質を食べてしまった時の被曝量を簡単に計算することができます。137Cs(半減期30年)ならば「1.3×10-8 Sv/Bq」です。例えば137Csを500Bq/Kgほど含む食品(暫定基準値)を500g(0.5Kg)ほど誤って食べてしまった場合、内部被曝量は次の通りです。


137Cs : 500 Bq/kg×1.3×10-8 Sv/Bq ×0.5Kg×106 = 3.25μSv


3.25μSvの被曝となります。ちなみに134Cs(半減期2年)ならば実効線量係数は「1.9×10-8 Sv/Bq」で、被曝量は1.5倍ほどになりますが、それでも500g食べてしまった時の被曝量は4.75μSvで、いずれにしても肺のX線撮影(50μSv)の1/10以下なので、(気分はよくないですが)誤って口にしたとしても問題になる被曝量ではありません。少し前に出まわってしまったセシウム汚染牛肉(数百~数千Bq/Kg)のステーキを誤って食べてしまっても、最悪でも肺のX線撮影1枚分前後に収まるので、人生を悲観する必要はないことがわかります(もちろん継続的に食べ続けることはいけません)。

ちなみに、食品全てが暫定基準値クラスの汚染を受けていた場合(放射性セシウム合計500Bq/Kg)は、どうなるでしょうか。現実には137Csと134Csが等量ほど含まれていることが多いので、それぞれを250Bq/Kgずつとして、一日に食べる食品が1.5Kgだとすると以下のようになります。


137Cs(250Bq/Kg):
250 Bq/kg×1.3×10-8 Sv/Bq×1.5 kg/日×365日×106 ≒ 1800 μSv
(1.8 mSv)

137Cs(250Bq/Kg):
250 Bq/kg×1.3×10-8 Sv/Bq×1.5 kg/日×365日×106 ≒ 2600 μSv
(2.6mSv)


合計すると約4400μSv(4.4mSv)となります。福島原発の事故前に日本人が受けていた自然放射線量の平均1400μSv(医療被曝を除く)や一般人の被曝限度量1000μSv(1mSv)(これも医療被曝を除く)を大幅に越えてしまっていますが、緊急時である、ということと、おそらく全ての食品が暫定基準値を超えることはないだろう、という予測で設定されたのではないかと予想します。チェルノブイリ事故時のヨーロッパでもそのような発想で「10%の食品が放射能汚染を受けていたとしても、被曝量が1000μSvを超えないようにする」という発想で暫定基準が決められていました。今回の場合も「一日に食べる食品の10%(重量比)が暫定基準値に汚染されていて、他はセシウム汚染がない」という計算であれば、放射性セシウムによる被曝は年間440μSv(0.44mSv)に収まります(平均で50Bq/Kg以下ならこうなります)。現実のモニタリング調査から考えると、放射能が多く含まれていそうな食材を選んで食べ続けない限り、問題はないと考えられます(逆にわざと選んで食べるのはオススメできない、ということ)。


緊急被ばく医療ポケットブック(原子力安全研究協会)
http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/index.html
 →付録に実効線量係数(摂取・吸入)の一覧が載っています。

「日本からの輸入食品の放射線検査の許容水準上限を引き下げ(EU)」(JETRO)
http://www.jetro.go.jp/world/shinsai/20110411_01.html
 →欧州の暫定基準値の決め方について書かれています。現在は日本の基準にあわせて、「放射性セシウム500Bq/Kg以下」が使われています。




「セシウム以外の核種の汚染は少なそう」
ストロンチウムやプルトニウムなどの調査はあまり行われていないので、まだまだ心配なのは確かです。骨への蓄積が心配されるストロンチウム90(90Sr)や強力な発がん性が心配されているプルトニウム(Pu)などいくつか気になる核種がありますが、セシウムと比べると放出量は少なく、原発周辺の土壌調査からもストロンチウムでセシウムの1/100以下、プルトニウムは福島原発事故以前の水準の範囲内に収まっています。最近、横浜のマンション屋上の堆積物からストロンチウムが検出されて問題になっていますが、当該箇所で検出されたセシウムの1/100以下、という傾向は同じです。つまり放射性セシウムの濃度が高くなければ、放射性ストロンチウムなど他の核種の濃度はさらに低いと考えられます。ストロンチウム90の実効線量係数は「2.8×10-8 Sv/Bq」で、137Cs(セシウム137)の2倍強の強さですが、食品中に含まれる割合が放射性セシウムの1/100であるならば、セシウムの方が、遥かに影響が大きい、という計算になります。もちろんストロンチウムは骨に集まりやすいということもあるので、完全に安心というわけではないのですが、セシウムの値が問題ない数値であれば、他の核種も概ね大丈夫そうです。逆をいえば、放射性セシウムの濃度が高いものには、放射性ストロンチウムも多く含まれている可能性がありますので、注意が必要です。


「文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について」(文部科学省)
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/5600_0930.pdf
→原発の数十キロ圏内でのプルトニウム、ストロンチウムの土壌調査の結果。

「解析で対象とした期間での大気中への放射性物質の放出量の試算値(Bq)」(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110826010/20110826010-2.pdf
→希ガス、ヨウ素、セシウムの放出が多いことがわかります。

セシウムの地表への分布状況は文科省の航空モニタリングがわかりやすいです。
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/monitoring_around_FukushimaNPP_MEXT_DOE_airborne_monitoring/
 →あくまで数百メートル四方の平均値で、溝や雨樋下など注意すべきところの値はわかりませんが、地域ごとの傾向をつかむことができます。




こうして見ていると、食の安全としては、現時点ではそこまで悲観する必要はないと考えられます。でも、重要なのはこれからで、こうした客観的な事実を前にしても、Gatto e topoは、なお気をつけたほうがいい、と考えています。その根拠について1つずつ紹介していきます。


「医療被曝による過剰発がんを指摘する報告もある」
肺のX線撮影くらい(50μSv)程度の被曝であれば、全く問題ないことは確かなのですが、CT検査(数mSvの被曝)になってくると、1回位はともかくとして、繰り返しの被曝には発がんのリスクが出てくる可能性があります。その場合には、患者さんが受ける利益(つまり検査結果)と被曝を天秤にかける必要が出てきます。低線量被曝の影響はわからないことが多く、大きな問題はないとする研究者が多い一方で、問題を指摘する研究者もいます。例えば、Lancetという権威ある内科論文誌に掲載されたBerrington de Gonzálezら論文では、医療被曝の問題点として、割合としてはわずかにしても、総数では少なくない数の過剰発がんを起こしているのではないかと指摘しています。とりわけ、日本では医療被曝(検査)が多い、といわれていて、一定数の過剰発がんが起きているのではないかと指摘もあります。ちなみに原発労働者では以前から被曝による白血病などの発生が心配されていました。労働災害認定の基準は5mSv以上の被曝です。(福島原発事故の前までの)近年では年間被曝量は、むしろ医療従事者の方が多いくらいにまで、大幅に減っていました。従って、今後、福島原発周辺で予測される数十mSvの被曝であっても、過剰発がんが起こらないと言い切ることはできません。ちなみに、自然放射線量の高い地域での発がん低下を指摘する論文(Mifune et al., 1992)もあったのですが、そのような効果はなかったという報告もあり(Ye et al., 1998)低線量被曝の「有用性」は今のところ科学的に証明されたものではありません。先に紹介したように、今回の事故で食事から受ける内部被曝の絶対量は大きいとはいえないのですが、外部被曝・内部被曝共に、できるだけ減らしたほうがよいのは間違いないと考えています。


Berrington de González A, Darby S. Risk of cancer from diagnostic X-rays: estimates for the UK and 14 other countries. Lancet. 2004 Jan 31;363(9406):345-51.
→医療被曝(主にCTなど)による発がんの可能性を指摘した論文(むやみにCT検査を繰り返すのは避けたほうがよい、という趣旨)。肺のレントゲン検査(50μSv)など単純X線撮影は被曝量が少ないので気にする必要はありませんが、CTは気をつけたほうがいいです(撮影場所・方法で変わりますが数千μSv)。必要な検査をむやみに恐れる必要はないですが、CT(強い外部被曝)や内部被曝を受ける検査(シンチなど)の場合はしっかりと説明を聞いてから検査を受けましょう。

Mifune M, Sobue T, Arimoto H, Komoto Y, Kondo S, Tanooka H. Cancer mortality survey in a spa area (Misasa, Japan) with a high radon background. Jpn J Cancer Res. 1992 Jan;83(1):1-5.
 →自然放射線であるラドン吸入は肺がんのリスクを増やすと言われていたが、むしろラドン濃度の高い(自然放射線の多い)地域ではガン発生率が低下していることを報告。

Ye W, Sobue T, Lee VS, Tanooka H, Mifune M, Suyama A, Koga T, Morishima H, Kondo S. Mortality and cancer incidence in Misasa, Japan, a spa area with elevated radon levels. Jpn J Cancer Res. 1998 Aug;89(8):789-96.
 →同じ地域での後年の調査で、幅広いガン発生率の低下はなかった。胃がんの低下はみられたが、放射線の影響と言うよりは温泉地でみられる効果らしい。ラドンの濃度が高い地域でもガンが著しく高まる、ということはないようだが(きちんと換気をしていれば大丈夫)、ガン発生の著しい低下は再現しなかった。



「中等度のセシウム土壌汚染で過剰発がんを示唆する報告もある」
舞い上がった放射性物質を含む埃を日常的に吸い込んだり、放射性物質を含んだ食べ物を日常的に食べることの影響はまだはっきりとはわかっていません。スウェーデンのTondel,らの研究によれば、チェルノブイリ事故の影響で数万~十万Bq/平方メートル前後の汚染を受けた地域(スウェーデン)では、ガンの発生率が増えていることが報告されています。セシウム137の蓄積量が8万~12万Bq/平方mの地域では、ガンの発生頻度が約1.2倍、蓄積量が6万~8万Bq/平方mの地域では、約1.1倍になっていて、10万Bq/平方mのセシウム137でのガン発生リスク増大は約10%と見積もられています。今回の原発事故でもセシウム137が10万Bq/平方m以上の領域はかなり広く(文科省の航空モニタリングのセシウム137蓄積量マップでの青の表示以上の場所です)、心配されます。外部被曝だけの場合と比べるとあまりに異なるので(100mSvの被曝でも過剰発がんは1%以下といわれている)、にわかには信じがたいのですが、食品や吸入による内部被曝のリスクを示唆する可能性があります(食品については注意が払われたはずなので、むしろ吸入のリスクが疑わしいと個人的には考えています)。1つの論文だけで結論づけるのは危険ですが、査読された科学論文でそのような報告がある以上、用心したほうがいいのは間違いありません。


Tondel M, Hjalmarsson P, Hardell L, Carlsson G, Axelson O. Increase of regional total cancer incidence in north Sweden due to the Chernobyl accident?. J Epidemiol Community Health 2004;58:1011–1016.
 →スウェーデンでの調査。



「わからないことはできるだけ気をつけたほうがいい」
用心したほうがいいという最大の根拠はこれです。もちろん、根拠がはっきりしないことを信じるのは科学的でないかもしれません。しかし、水俣病(水銀)、アスベスト(石綿)や薬害の教訓から考えると、こと健康に関することは、できるだけ慎重に安全サイドにたって行動する必要があると考えます。例えば、先に紹介した実効線量係数(摂取・吸入)がどれくらい確からしいのか、ストロンチウムのように特定の臓器(ストロンチウムでは骨、ヨウ素では甲状腺)などに集積する性質のある核種では本当に実効線量係数だけで大丈夫なのか、あるいは吸入・摂取以外に、気道などに付着した場合はどうなのか(「緊急被ばく医療ポケットブック」でも気道などへの付着は別なので注意、と書かれている)、心配の種はつきません。25年たったチェルノブイリ事故であっても、未だ事故の影響は論議の対象であり、わからないことはいろいろあります。そして今後、事故がどのように推移していくか、未だ不確定要素は多くあります。そうした理由から、被曝は少なければ少ないほどよいとGatto e topoは考えています。



もちろん、はじめに書いたように、自然放射線や医療被曝でも受けうる1mSv前後の被曝量であれば、リスクは十分に少ないと予想されます。先に紹介したように外部被曝やその他の要因に比べて、食品から受けるであろう内部被曝量はそれほど多くないと考えられるので、そこまで神経質になることはないと考えています。外部被曝が多い地域(年間1mSv~5mSvを超える地域)ではまずそちらに用心する必要がありますが、食品に関して言えば、土壌や食品のモニタリング調査の結果に気をつけつつも、(当該地域での)野生のキノコや獣肉を避けるなど、多少の注意をしながら、偏りのない食事をしていけば大丈夫だと考えています。



(11/10/21)一部加筆修正
(11/10/22)一部加筆修正、表題を変更しました。

2011年7月3日日曜日

放射能と淡水魚

福島原発の事故から3ヶ月以上が経ち、現在も収束には至っていません。大規模な放射性物質の放出があったのは最初の1週間であったことが分かってきましたが、大気中への放出量だけでもチェルノブイリ原発事故の2割から1割と決して楽観できる規模ではありません。福島県浜通り・中通りから関東平野にかけて地表には多かれ少なかれ放射性セシウムが降り積もった状態となっています。そこで心配されるのが食品の汚染ですが、畑作物や畜肉類は注意が払われているようで、基準値(*1)を大幅に超過するような例は少ないようです。しかし、汚染土壌に菌糸を広げてしまう野生のキノコには注意が必要です(タケノコも)。さて、チェルノブイリの教訓から、同様に注意が必要なものに天然物の淡水魚があります。

北欧・英国北部ではいまだ淡水魚中のセシウム濃度が高い
チェルノブイリ原発の事故の後、放射性セシウムの汚染を受けた北欧(スカンジナビア半島)や英国北部~西部にある一部の湖沼(「ホットスポット」にあたるような場所)では、淡水魚中に含まれる放射性セシウムの濃度が上昇しました。北欧や英国でのセシウム降下量は数万~十数万Bq/平方mであり(*2)、今回の事故にあてはめると、福島県中通り~北関東、南関東の一部ホットスポットにあたる地域です(*3,4)。世界で最も権威のある科学論文誌の1つであるNatureに掲載されたJonssonら論文(*5)によれば、北欧で採取された淡水魚(マス類2種)中からは事故直後、数千~1万Bq/Kgに上る高い濃度の放射性セシウムが検出されました。その後、約5年で数百~1000Bq/Kgまで急速に減少したのち、その後は、数百Bq/Kgで推移しているというのが論文の主旨です。Smithらも英国カンブリア地方の湖沼で同様の結果を報告しています(*6)。今回の事故ではどうでしょうか?水産庁WEBサイトに掲載されている水産物放射性物質調査結果によれば、原発周辺で捕獲されたアユ、ヤマメ、ウグイなどの淡水魚からは最大4400Bq/Kgと高い放射能が検出されています(*7,8)。JonssonやSmithの初期値とほぼ同様の水準です。水産庁の資料によると、福島原発から遠く離れた場所でも基準値以下ながら多少の放射性セシウムが検出されている例もあり、淡水魚には放射性セシウムを蓄積しやすい性質があることを示しています。

淡水魚はイオンを取り込む働きがある
なぜ淡水魚には放射性セシウムが蓄積されやすいのでしょうか。まず考えられるのは、イオンの取り扱いをめぐる海水魚との違いです。魚介類に限らず、私たちの体には、ナトリウム(Na+)やカリウム(K+)、クロライド(Cl-)といった多くのイオン(電解質)が含まれています。海水のイオン濃度(特にNa+とCl-)は体液より濃いため、海水魚は鰓(えら)を使ってイオンを排出して体内のイオン濃度を調節しています。一方、淡水中にはこういったイオン類はあまり含まれていないため、淡水魚では鰓を使ってイオンを取り込んでいます。この働きをうまく調整することができるウナギなど一部の魚では海と川(沼)の両方で生活することできるのです。今回問題となっている放射性セシウム(Cs)は、水によく溶けセシウムイオン(Cs+)となります。イオンとなったセシウムはカリウムと似た性質をもちます。体内でカリウムは細胞の中に多く含まれ、とりわけ筋肉組織に多く分布します。従って、放射性セシウムを体内に取り込んでしまうと、カリウムの代役を演じることになります。だから「放射性セシウムは筋肉に取り込まれる」と言われているのです。さて、だから「カリウムを多く含んだ食品を食べるとセシウムをあまり取り込まずに済む」などと言われているのですが、海水魚の場合、鰓を使って積極的にイオン類を排出する働きがあるので、放射性セシウムは蓄積しにくいと考えられてきました。反対に、淡水魚の場合、淡水中に乏しいイオン類を積極的に取り込む働きがあるため、放射性セシウムを蓄積しやすいと考えられているのです。
さらにアユなどに関しては餌の問題も考えられます。水草やコケなども、「根」が浅く、水中から広く養分を吸収するため、比較的放射性セシウムを取り込みやすいと思われます。それらを餌にするアユは放射性物質を取り込みやすく、しかも先に紹介したように排出しにくい仕組みを持っているので、比較的高濃度の放射性物質が検出されているのだと思います。JonssonやSmithらの研究では、食物連鎖の循環により、長期間、放射性セシウムの濃度が持続することがわかりました。本当に残念なことですが、天然物の淡水魚での放射性物質の問題は長引く可能性があります(特に閉鎖系の湖沼では)。

適切に管理された養殖物は大丈夫そう。
なお、菌床キノコが問題ないのと同様に、餌や水がコントロールされている養殖の場合には放射性セシウムの蓄積はほぼないか、極めて少なくなるようです。実際に水産庁WEBサイトに掲載されている水産物放射性物質調査結果を見ると、養殖の場合には、ほとんど検出されないか、検出されても基準値(500Bq/Kg)の1/10以下にとどまっています。注意すべきは、自分で川や湖に釣りに行く場合の天然物です。ただし、これまでのところ、基準値超過となっている淡水魚類は原発周辺に限られている(福島県中通り、浜通り)ようなので、過度に神経質になる必要はないと思いますが、野山のキノコと同様に、ここしばらくの間、釣りに行って魚を食べるときには、その周辺の汚染状況と最新の調査結果に注意を払う必要があると思います(写真はwikipediaより。遡上するアユで、今回の原発事故とは関係のない写真です)。










参考資料:

*1 福島原発事故前からの輸入品基準値が放射性セシウム370Bq/kg以下、事故後の暫定基準値が500Bq/Kg以下。ちなみに平時にはほとんど検出されていませんでした。

*2 Mark Peplown. Chernobyl’s legacy. Nature. 2011 Mar 31;562-565.
福島原発の事故を受けて、チェルノブイリ事故を回顧する記事です(英国の科学誌Nature)。事故の影響とともに欧州の放射性セシウム降下量のマップが紹介されています。

*3 文部科学省・米国エネルギー省の航空機モニタリング調査
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/06/16/1305819_0616_2.pdf
北欧・英国北部のセシウム降下量(~十数万Bq/平方m)に相当するのは地図上で~水色のエリアの一部までです。

*4 「千葉、茨城で土壌から通常の400倍セシウム 筑波大調査」中日新聞WEB (2011年6月14日)
北関東~南関東の一部に数万Bq/平方m以上に相当するエリアが散在しています(4万Bq/平方m以上が「放射線管理区域」に相当)。図中で緑~黄色に相当するエリアです(中日新聞WEBサイトからは既に見ることができませんが、ネット上のいくつかのサイトで引用されています)。

*5 Jonsson B, Forseth T, Ugedal O. Chernobyl radioactivity persists in fish. Nature. 1999 Jul 29;400(6743):417.

*6 Smith JT, Comans RN, Beresford NA, Wright SM, Howard BJ, Camplin WC. Chernobyl's legacy in food and water. Nature. 2000 May 11;405(6783):141.
こちらも英国の科学誌Natureの論文。英国西部カンブリア地方の淡水魚、放牧のヒツジでも同様に放射性セシウムが長期間残存していることを報告。

*7 水産物放射性物質調査結果・マップ(水産庁)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/Q_A/pdf/110701_map_jp.pdf

*8 水産物放射性物質調査結果・リスト(水産庁)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/Q_A/pdf/110701_kekka_jp.pdf

2011年4月5日火曜日

万が一の時、放射能雲から身を守る2

食と健康、というよりは、万が一の時にどう身を守るかというお話。続きです。

前回、3月15日の放射線量増加を例に、(その危機は去りつつあると信じていますが)何らかの爆発など万が一の際には、風向などを見ながら、屋内に避難して放射能雲が去るのを待つのがよいのではないか、ということを書きました。すでにドイツやオーストリア、ノルウェーなど欧州各国の気象庁・研究所が、かなり早い段階から放射性物質拡散の「予報」(というかシミュレーション)を公開していることを知って愕然としました。

こちらが、東京都の公開データを元にグラフにした実測値。






こちらがオーストリア気象地球力学中央研究所が3月14日の時点で公開していた放射性ヨウ素拡散の予想図

放射性ヨウ素拡散の予想図(3月14日公開)
http://www.zamg.ac.at/pict/aktuell/fuku_I-131.gif

時間はUTC(世界標準時→日本は9時間進んでいる)です。風向の変化と共に放射能雲の帯が関東地方に接近する様子がわかります。蛇行した帯が一旦東京上空を通過した後に再び通る様子が分かり、実際のグラフの2つの山がうまく説明できます。実測と比べると時間には多少のズレがありますが、傾向としてはかなり当たっていたのではないかと思います。いざという時に、家族や自分の身を守るには海外の情報にも目を向けておく必要がありそうです。もちろん、3月15日に東京で実際に観測された放射線量(1時間平均では0.5μSv/h程度)は健康に影響を与えるものではありません。万が一の時の備えということです(オーストリア気象地球力学中央研究所などのリンクは下記の通り)。念のため。


参考資料:
オーストリア気象地球力学中央研究所(Central Institute for Meteorology and Geodynamics, Austria)
http://www.zamg.ac.at/
→「Neue Informationen」にて新着情報がみられます(ドイツ語ですが「Aktuelle Lage nach Unfall in Fukushima (Update: 5. April 2011 12:00)」を開いて左下の「Download」をクリックすれば最新のシミュレーション結果がGIFアニメで閲覧できます。)

ドイツ気象庁
http://www.dwd.de/
→トップページ下方に拡散の予報(シミュレーション)が掲載されています。

どちらのシミュレーションも限られた情報(放射性物質の放出量)の中での計算なので、あくまで目安に過ぎませんし、元の放出量が少なければ、到達する放射性物質の量も激減するので、過度に心配する必要はありません。しかし、3月15日や21日の上昇を見事に言い当てていますので、万が一の時には参考になると思います。

東京都・健康安全研究センター・都内の環境放射線測定結果
http://ftp.jaist.ac.jp/pub/emergency/monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/
→ グラフはこちらの資料を元につくりました。

2011年3月30日水曜日

放射能と水道水

うちでは、普段から主に(市販の浄水器を通した)水道水を飲んでいて、当然調理にも使っています。
3月22日には、ついに東京の水道水からも乳児向けの基準を超えた放射能が検出されてしまいました。最大で放射性ヨウ素が210Bq/lということです(周辺でもだいたい同程度)。

乳児向けの基準である「100Bq/l」(放射性ヨウ素)の水を1年間飲み続けた場合の被曝量が1mSv(1年間に浴びる自然放射線量に相当)程度なので、数日程度飲んだところで、全く心配はいらないと思います。変に神経を使い過ぎるのはよほど体に悪いですが、(医療被曝とは違って)被爆しても得になることはありませんので、若い人(特に乳児)は避けられれば避けた方がよいのは間違いありません。今回の基準(大人300Bq/l、乳児100Bq/l)はあくまで非常時のものであることに注意する必要があります(*)。

さて、東京の水道水に含まれる放射能(問題となっている放射性ヨウ素)の値をグラフにしてみました。蛇口水(新宿)と、新宿に水を供給していると考えられる荒川水系(朝霞浄水場)と利根川水系(金町浄水場)での放射性ヨウ素の値の日変化です(いずれも朝に採水、浄水場での測定値は20Bq/l以下を不検出としている)。




グラフから分かることは次の3つです。

新宿の水道水は主に荒川水系と考えられる
東京都水道局のWEBサイトによれば、新宿は主に荒川水系で、利根川水系の水を一部混ぜている、ということですが、今回もその結果を裏付けています。金町浄水場で基準越えとなったときでも、新宿の蛇口水では1/10程度の放射能量でした。新宿でのピークは、朝霞浄水場でのピークの後に来ています。
自分の住んでいるエリアの水道水がどこから来ているのかは、自治体のWEBサイトなど(東京都の場合は:「給水区域と配水系統図」)から知ることができます。


浄水場の水はおよそ1日で蛇口に到達する
これが肝心な情報。新宿の水道水は、主に荒川水系から来ているようですが、朝霞浄水場(荒川水系)で値が上がった翌日(3月26日)に最大値(37Bq/l)を記録しています。浄水場からの距離(配水系統)にもよりますが、浄水場から新宿までおよそ1日かかることがわかります。今後、値が上がったとき、規制解除された翌日~翌々日程度までは注意する必要がありそうです。


蛇口水の放射能値は浄水場の値より低い
新宿での最大値(37Bq/l)は、朝霞浄水場での最大値(76Bq/l)の半分くらいです。今回の数日程度の上昇だったため、時間的にならされたおかげで、蛇口水の最大値が浄水場の値の半分程度で済んだ可能性があります。いろいろな配水管や給水所を経由してきているので当然といえば当然です。

今回の水道水中の放射能の増加は、雨によって空気中の放射性物質が降ってきたこと、あるいは地面に降り積もっていた放射性物質が流されてきたことが考えられます。ここしばらくは雨が降った後に、同じようなことが起こる可能性があります。(これ以上、放出元の事態が悪化しなければ)降雨後数日でおさまることがわかったので、加熱消毒した水を冷蔵庫に数日間汲み置きしておくようにするなどすれば、やり過ごすことができそうです(そもそも大人の場合、これくらいの値で済めば神経質になりすぎる必要はありませんが)。


(*)水道水中の放射能量の基準について
現在の放射性ヨウ素は300Bq/l(乳児は100Bq/l)、放射性セシウムは200Bq/lという基準は、あくまで非常時のものであることに注意する必要があります。WHOの基準(平時)は放射性ヨウ素は10Bq/l、放射性セシウムは10Bq/lです。換算される被曝量を考えると、少し位飲んだところで心配はありませんが、これが常態化しないように注意する必要はありそうです。

参考資料:
東京都健康安全研究センター「都内の水道水中の放射能調査結果」(東京都)
http://ftp.jaist.ac.jp/pub/emergency/monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/w-past_data.html

東京都水道局・プレスリリース
http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/press/h22/

東京都水道局・事業概要H22
http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/water/jigyo/syokai/01_gaiyou22_1.html

WHO(世界保健機構)>「よくある質問: 飲料水の安全性について
http://www.who.or.jp/index_files/FAQ_Drinking_tapwater_JP.pdf

2011年3月27日日曜日

万が一の時、放射能雲から身を守る

食と健康、というよりは、万が一の時にどう身を守るかというお話。
(必ずしも「万」と言い切れないところがコワイですが)

事故発生から2週間あまりが経ちましたが、放射能漏れは未だ収束していません。
原発近傍(とりわけ北西方向)以外では、健康を脅かされるほどの放射線量にはなっていませんが、引き続き注意が必要です。

空間放射線量のグラフ
3月15日には一時的に大気中の放射線量が上がる(北茨城で5μSv/h、東京で1μSv/h程度)という出来事がありました。上がったと言っても一時的なもので、健康に悪影響を及ぼすレベルでは全くないのですが、爆発などによって放射能を含んだ塵が舞い上がると、200km以上離れた首都圏にも放射性物質が届くことがわかりました。
この日は北東方向、すなわち原発から首都圏方向に向かう風が吹いていたことが原因です。(絶対に起きてほしくないですが)万が一、致命的な爆発が起きて、大量の放射性物質がばらまかれたら、いったいどれくらいで届くのでしょうか。

3月15日を例に放射線量の増加をグラフにしてみました(茨城県、東京都が公表している数値を元に計算)。茨城県は市役所での10分おきの計測結果を公表していますから、東京のデータに合わせて1時間ごとの平均にしました。





北関東での風は、概ね北東方向で、地表での風速は3m/h程度でした。原発でのどんな出来事によって放射性物質が撒き散らされたのか今ひとつ不明なので、正確なことはわからないのですが、北茨城(市役所)での増加に続いて、1時間後には高萩(北茨城市役所から約10km)、5時間後には東京の新宿(北茨城市役所から約150km)で増加が生じています。当時の風速(3m/s程度)を考えると、東京への到達が早過ぎるような気がしますが、上空では風速が速いためと思います。風速・風向にもよりますが、原発から放出された放射性物質は数時間もすれば都心に届くようです(11/04/05追記:風速・風向で大きく変化するので「数時間」に修正。)。もちろん、距離が離れれば、塵も拡散するので、受ける放射線量もだいぶ下がることがわかります。
ちなみに、東京では、夕方にも再び放射線量が増加しています。あくまでも推測ですが、16時ころより風向が南東の風に変わっていますので、一旦通り過ぎた「放射能を含む塵」の一部が一旦、東京上空に戻ってきたのではないかと思います(11/04/05追記:概ね予想に近いですが、放射能雲の帯の蛇行が関係しているようです)。

万が一の時はどうしたらいいか
福島の原発から放射性物質が放出されてしまうと、風向きによっては半日ほどで、東京の放射線量も上がることがわかりました(風速によって変化)。しかし、風向きが変われば、放射性物質を含むガスや塵(放射能雲)は、吹き飛ばされていき、放射線量は再び下がります。(絶対に起こってほしくないですが)もしさらなる爆発などがあった場合、まずどうしたらいいか、ということですが、屋内に退避して、放射能雲が通りすぎるのを待つのが、懸命だと思います。変に逃げようとして、屋外に出て右往左往していると、もろに浴びてしまうことになりかねません。コンクリートの建物に入って、窓を閉め、換気を止めていれば、受ける放射線の量はかなり減らすことができます(うまくすれば1/10程度)。東京のように200km程度離れた遠方であれば、数時間屋内で耐えていれば、放射能雲をやり過ごすことができると考えられます。万が一のためにも日頃から関連情報に注意して、慌てずに一時退避することが重要だと思います。少し神経質かもしれませんが、私の場合は、ニュース等に加えて、茨城・埼玉・東京当たりの大気放射線モニタリングを時々チェックしています。なお、誤解を受けるといけないので、繰り返し書いておきますが、3月15日の放射線量上昇それ自身(5~1μSv/hを数時間程度)には健康上のリスクは全くありません



参考:どれくらいの被曝まで大丈夫なのか
被曝量の評価にはSv(シーベルト)という単位が使われます。一般人の法的な許容は0.001Sv、つまり1m(ミリ)Svですが、自然界に含まれる(ラジウム温泉など)放射能から受ける放射線として世界平均では2.4mSvほど浴びていると言われています。実験などで講習をうけた方はご存知だと思いますが、放射線従事者は50mSvが限度です。TVなどで累計100mSv(10万μSv)までは大丈夫などと言っている人もいますが、CTスキャンなどの医療被曝でもわずかながら、ガンを引き起こしているという論文もありますので(Berrington de González et al., 2004; Berrington de González et al., 2009)、どうしても避けられない場合を除いて、そこまでは浴びないほうがよいです(ガンが増える割合が僅かなのは事実です)。自然放射線+医療放射線+α程度である年間5mSv程度までなら、まず心配ないと思いますが、医療被曝と違って何のメリットもありませんので被曝量は少ない方がよいことは間違いありません(11/04/05追記)。

(100~200km程度離れた遠方ならば)情報に注意していて、万が一のことが起きたら、まずは換気を止めて屋内退避(風向きが自分たちに向かっている場合。東京では北東から来る風のとき)、これが真っ先にとることができて、最も有効な対処法だと思います。でも、こんなことを心配しなくてもいいように、現場の人々に感謝しつつ、問題解決の筋道がつくことを深く祈っています。


参考資料:

東京都・健康安全研究センター・都内の環境放射線測定結果
http://ftp.jaist.ac.jp/pub/emergency/monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/→ 「環境放射線量測定結果(最新データ)」から現在の空間放射線量(新宿区)を知ることができます(蛇口の水道水、放射性物質降下量の調査結果も)。

茨城県(茨城県トップ > 平成23年東北地方太平洋沖地震関連情報>県内の放射線情報
http://www.pref.ibaraki.jp/20110311eq/index2.html
→県北の空間放射線量を知ることができます。
現在の様子を知るには
茨城県環境放射線監視センター(放射線テレメータ・インターネット表示局
http://www.houshasen-pref-ibaraki.jp/present/result01.html
もオススメ。こちらの値が上昇したら東京も要注意です。もちろん1~2μSv/h程度の上昇で一喜一憂する必要はないですが。

気象庁(ホーム > 気象統計情報 > 過去の気象データ検索
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
→現在・過去の気象情報(風向・風速など)を知ることができます

Berrington de González A, Mahesh M, Kim KP, Bhargavan M, Lewis R, Mettler F, Land C. Projected cancer risks from computed tomographic scans performed in the United States in 2007. Arch Intern Med. 2009 Dec 14;169(22):2071-7.

Berrington de González A, Darby S. Risk of cancer from diagnostic X-rays: estimates for the UK and 14 other countries. Lancet. 2004 Jan 31;363(9406):345-51.
→医療被曝(主にCTなど)による発がんの可能性を指摘した論文(むやみにCT検査を繰り返すのは避けたほうがよい、という趣旨)。増分は僅かなので、必要な検査を恐れる必要はないです。

2011年3月21日月曜日

放射能と菌類(キノコ)

福島の原発事故の影響で、首都圏の農作物・牛乳等から放射能が検出されたようです。照射が一瞬でおわる胸部X線検査(外部被曝)とは異なり、放射能を出す物質を吸い込んだり、摂取したりすること(内部被曝)は、極力減らしたほうがいいといわれています。しかし、チェルノブイリ事故の例と比べると漏れ出した放射性物質の量はずっと少なく、現時点で、それほど神経質になることはないと思います。(11/10/22 注:実際にはチェルノブイリの1/5~1/10の放出量、INESレベル7の大事故になってしまいました) 現在(2011年3月の時点で)問題になっているのは、放射性物質を含む塵で、ホウレン草などの葉物野菜には、この塵が降りかかりやすいことにあります。基準値(野菜等で2000Bq/Kg)を超えた野菜は市場に流通する可能性は低く、放射性物質を含む塵に関しては洗い流してしまえば影響は大幅に減ります(11/04/05 注:事故後は野菜を洗ってから放射能測定しているらしいです)。しかも現在問題になっている放射性ヨウ素(131I)に関しては、半減期は8日程度、つまり1週間もすれば放射能を出す能力は半分程度になるので、発生源(原発)自体がこのまま沈静化してくれれば、値は大幅に下がるはずです。しばらくは注意深く推移を見ていく必要がありそうです。
一方、同時に検出された放射性セシウム(137Cs)も、検出量はずっと少なく(放射性ヨウ素の概ね1/10程度)、原発の近傍を除けば、現時点で心配する必要はほとんどないと思います。しかし半減期は30年と長く、放射性セシウムを蓄積する性質のある食品もあるので、今後しばらくは若干の注意が必要かもしれません。

菌類には放射性セシウムを蓄積する働きがある
菌類、つまり、キノコには放射性セシウムを蓄積する働きがあることが知られています。実際、大量の放射能漏れを起こしたチェルノブイリ原発の事故(1986年)の後、かなり長い間、ヨーロッパ産のキノコからは高い濃度の放射能(生のキノコで40000Bq/Kg、乾燥品では140000Bq/Kgのものも)が検出されていました。
日本では、輸入食品の放射能量は370Bq/Kg以下であることが基準ですが、最近になっても基準越えで輸入差し止めとなった例がでています(例えば2008年・ベラルーシからのアンズタケで450Bq/kg)。もちろん日本で市場に出回っている安価なキノコの多くは屋内での菌床栽培であり、放射能蓄積の心配はほとんどありません。実際、平時の調査(2000年秋)でも、菌床栽培のキノコ(シイタケ)は屋外のものに比べて、放射性セシウムの量が1/4程度であることが知られています(Ban-nai et al.2004)。もちろん、微量の放射性物質は平時でも検出されていて、どちらもほとんど0に近く健康には全く影響ないレベルです(2.0 Bq/Kg vs 0.5 Bq/Kgのような超微量同士の比較)。ただし、環境中の放射性セシウムが増えたとき、同じような傾向になると考えられるので、屋外、とりわけ野生のキノコには放射性セシウムが蓄積される可能性があります。


自己判断のキノコ狩りには注意が必要
チェルノブイリ事故での事例や、平時の日本での調査(Ban-nai et al., 2004)から考えると、放射性セシウムなどの放射性物質が野生のキノコに蓄積する可能性があります。もちろん、現時点ではどの程度の量になるのかわかりませんし、現時点での放出量で留まってくれれば、きのこ狩りに行って食べた位の量で、すぐにどうこうなるとは到底思えないので、気になる人は気をつけておいた方がよい、といった程度です。そもそも食用キノコと毒キノコの区別が難しいので、自己判断でのキノコ狩りは大変危険です。実際に、厚労省の統計によれば、毎年100~200人近くの食中毒をだしています。個人的には、5年くらい前に、知り合いの知り合いが採ってきたというキノコを食べ、頭痛と嘔吐でひどい目にあった経験があります(酒にも弱いので本当にキノコにあたったのかは不明ですが)。キノコは大好きなのですが、それ以来、自己判断(や素人の判断)で野生のキノコを食べるのは避けています。結局のところ、毒キノコの方がよほど危ない、という話もあるのですが、加えて、今年の秋は、場所によって残留放射能の問題も生じる可能性があるので、自己判断によるキノコ狩りは控えたほうがよいと思います。今後しばらくは経過を追っていきたいと思います(写真は毒キノコであるベニテングタケ、wikipediaより)。

いずれにしても、現在の放出量で沈静化してくれれば、原発のごく近傍を除けば、心配するほどの被爆量にはならないですし、(放射性ヨウ素の半減期は1週間程度なので)食品の問題も徐々に沈静化していくと思います。その点からも原発事故がこれ以上悪化しないことを祈っています。



参考:ベクレル(Bq)とは
放射能にはさほど詳しくないのですが、多少関連のある資格を持っているので一言。
1ベクレル(Bq)とは、「1秒間に原子核1つが崩壊して放射線を放つ」放射能のことであり、今回問題になっている放射性ヨウ素や放射性セシウムではガンマ線が出ます。1Bq/Kgとは1Kgの物体から1秒あたりに1つの原子核が崩壊している(放射線を出す)ことを意味しています。つまりごく微量です。これに対して、最近、新聞などで目にすることが多いシーベルト(Sv)とは、人体がどの程度の放射線を受けたかを示す被曝量の単位です。「~Bq/Kgの食品を~gほど~日間食べたときの被曝量は~Sv」といった具合に、計算して被曝量を評価します。


参考文献:
Ban-Nai T, Muramatsu Y, Yoshida S. Concentrations of 137Cs and 40K in mushrooms consumed in Japan and radiation dose as a result of their dietary intake. J Radiat Res. 2004 Jun;45(2):325-32.

Duff MC, Ramsey ML. Accumulation of radiocesium by mushrooms in the environment: a literature review. J Environ Radioact. 2008 Jun;99(6):912-32.

輸入食品違反事例(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/tp0130-1ae.html
→ 北東ヨーロッパ産のキノコから、時折基準越えの放射性セシウムが検出されて輸入差し止めになってます。基準というのが、370Bq/Kgと厳しめですし、そんな高級品は沢山食べるものでもないので、それこそ心配する必要のない値ですが・・・(「微量の放射線が体によい!?」と言われているラジウム温泉と同程度)。

毒キノコによる食中毒発生状況(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/syouhisya/101022-2.html
→ 死者は数名のみですが、毎年100~200人の中毒者をだしています。昨年はとくに数が多かったようです。

追記(11/03/27):
21日の時点で「放射性セシウム(137Cs)も、検出量はずっと少なく」と書きましたが、食品でもセシウムの放射能量が基準越えになった例も出ており、原発に近い地域では、深刻な土壌汚染も起きているようです。「チェルノブイリ事故の例と比べると漏れ出した放射性物質の量はずっと少なく」と書きましたが、放射性セシウムによる土壌汚染では同程度の地域も出ているようです。しかもトラブルを起こした原発が3機(+使用済み燃料プール)もあり、放射性物質の漏洩は未だ続いています。おまけにプルトニウムの混じった燃料(3号機)も使われているので、予断は禁物です。パニックを起こす必要はありませんが、まだまだ楽観できる状況ではないと思います。

追記(11/04/05):
厚生労働省の報道資料によると、ついに原木栽培(屋外)のシイタケから規制値を超えた放射性セシウムが検出されてしまいました(4/1採取)。過去の文献からも推測できる通り、菌床栽培(屋内)は無事です。基準値というのは今回の事故を受けての暫定基準(放射性セシウムは500Bq/Kg)で、これまで用いてきた輸入食品のための暫定基準(370Bq/Kg)よりも緩いことに注意してください。野生のキノコでの蓄積はこれから徐々に進むはずです。残念ですが、状況がはっきりするまでは、南東北~関東にかけては山林に入ってのキノコ狩りは控えた方が良いと思います。

参考:厚生労働省>緊急モニタリング検査結果について(福島県・野菜)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017sys-att/2r98520000017t43.pdf

追記(11/07/03):
地域限定になりますが、野生のキノコ同様に野生の淡水魚にも注意が必要です(養殖物は大丈夫)。
放射能と淡水魚」にまとめましたので興味のある方はご参照ください。





放射能とキノコの話題です。

野生キノコの放射能の問題は現実のものとなり、北海道を除く東日本では野生のキノコには注意が必要です。

菌類と放射能2(野生のキノコと栽培キノコ)
野生のキノコと栽培キノコについて近況をまとめた続編です。

菌類と放射能3(菌床キノコの近況)」菌床キノコからも暫定基準値超えが出てしまいました。菌床培地の問題と考えられるので、十分に防げると考えています。

あわせてこちらの記事もご参照ください。

2011年2月12日土曜日

本当に危ない穀物のカビ

世の中で、危ないかも、と言われている添加物や食品がいくつかありますが(保存料と着色料など)、極端な量を食べなければ、たいして危なくない(と考えられる)ものがほとんどです。しかし、トランス脂肪酸などよりも遥かに気をつけたほうが良いものがあります。

それは穀物に生えたカビです。カビはカビ毒(マイコトキシン)という有毒物質をつくりだすことがあるのですが、アスペルギルス・フラバス (Aspergillus flavus) という種類のカビはアフラトキシンという大変な毒物を作り出します。自然界の毒ではもっとも発がん性の高いもので、肝臓がんを誘発する作用があります。微量でも摂取する必要は全く無く、出来る限り摂取を避けたほうがよい物質です(アフラトキシンの構造式はwikipediaより)。



米、ピーナッツやピスタチオなどの豆類、トウモロコシなど穀物などで問題になることが多いのですが、乾燥イチジクなどのドライフルーツなどでも微量が検出されて一時的に輸入停止などになることがあるようです。
もちろん、日本国内では、原則として厳しく管理されているので、食品用の米などではほとんど心配はないはずです。少し前に「事故米」で話題になっていましたが、さすがに最近は大丈夫だと思います。

ですが、自分の家で保管するときには、穀類などにカビを生やさないように注意する必要があります。穀物粉などは必要以上に買いだめせず、湿気の少ないところに保管する必要があります。また、乾燥豆やとうもろこし粉などを主とする輸入食品などでも、適切な衛生管理をされ、適切な保管をされたものか、すこしばかり気を配る必要がありそうです。その辺りは、相手方の衛生管理と日本の検疫を信じるしかないですが、少なくとも、穀物類(米、豆、とうもろこし粉など)は、しっかりと密封されたもののみ買うようにしています。開封後は(それだけで万全かはわかりませんが)、密封して冷凍庫にしまっています。冷凍してしまえばカビが生える可能性は大幅に減ると思いますが、開けたらできるだけ早く使い切るのが原則です。

そういえば、30年位前の話になりますが、「もったいない」精神が旺盛な祖父は、餅に生えたカビを削りとってから、揚げもちにして食べていましたが、この観点からいえば絶対にやめた方がよいことになります。餅に関しても、松ノ内の間はパーシャル冷凍にしておけばまずカビませんし、冷凍庫に入れておけばしばらく大丈夫です。ちなみに、その他、マイコトキシンの心配の少なそうな食べ物(塩分の高い保存食品や、チーズやヨーグルト、味噌・醤油などのすでに他の食用のカビや菌がついているもの)の賞味期限は結構適当に扱っています。もちろん生鮮食品は食中毒が怖いので、早めに食べていますが(笑)。

2011年2月9日水曜日

本当?子どもの発達とタール色素・安息香酸塩

注意欠陥・多動性障害(ADHD)とは、注意力の低下や衝動性の増加で特徴付けられる発達障害で、小学校への就学時に問題になることが知られています。学童の数%がこのような問題(極度に「落ち着きがない」など)に直面しているとも言われていますが原因や根本的な治療法はまだ見つかっていません。最近、食品添加物の一種であるタール色素(合成着色料)の一部と安息香酸塩(保存料)が、子どもの「落ち着きなさ」を悪化させる可能性を示す論文が発表され、話題になっています。

論文の内容
McCannらが発表した論文(McCann et al., 2007 Lancet)では、特定のタール色素(赤色40号、赤色102号、カルモイシン、黄色4号、黄色5号、キノリンイエロー)と安息香酸ナトリウムの混合物を加えた清涼飲料水を用意しました。そして8-9歳の学童(および3歳児)を対象に、着色料と保存料を含んだ清涼飲料水を飲んだグループと、着色料と保存料を含まない清涼飲料水を飲んだグループに分けて、、6週間にわたって定期的に飲み続けてもらいました。同時に、「落ち着きなさ」を示すスコアを評価して、着色料と保存料の影響が見られるかを検証しました。その結果として、着色料と保存料を含んだ清涼飲料水を飲んだグループでは、程度は少ないものの、落ち着きない行動が増えていました。二重盲検といって、検査者も被験者も、薬がどちらに入っていたかを知らずに評価を受けていますし(後で集計)、対象となる群も偏りが生じないように注意されていました。薬の評価をする際に、二重盲検を使えば思い込みの効果を消せるため、信頼性が高くなると考えられています。その甲斐もあってか、この論文はLancetという世界的に権威のある医学論文誌に掲載されました。

反響と問題点
この結果を受けて、英国食品基準庁(2008/4/4)では、該当するタール色素に関して、子どもの落ち着きなさ(多動性)を悪化させるかもしれない、と注意喚起を行い、英国の食品業界では使用を自主規制する動きが出てきました。しかし、欧州食品安全当局(2008/3/14)は、これから紹介するような研究の問題点を指摘した上で、悪化の程度は必ずしも大きくなく、それほど過敏になる必要はないのではないか、としています。Lancetは権威のある論文誌であり、二重盲検という信頼性の高い方法が使われているのですが、確かにいくつかの問題があります。

1)混合物のうちどれが作用したのかはっきりしない。着色料と保存料の混合物の構成比は英国で標準的に摂取されている着色料と保存料のセット、あるいは英国のグループが実践している食品添加物除去療法で対象となっている着色料と保存料のセットが選ばれ、実験は混合物を対象に行っています。従って、タール色素のどれが、あるいは安息香酸塩がどうなのか、それぞれの作用についてこの研究からはわかりません。
2)用量が増えると影響も増す(用量反応性)性質がわかればはっきりするが、示されていない。この手の薬物の影響を見る研究では、どれくらいの用量ではどれくらいの効果があった、ということも調べる必要があるのですが、今回の報告にはそれも含まれていません。それがわからないと効果が如何ほどのものなのか今ひとつはっきりしません。
3)影響があるといっても「落ち着きの無さ」の悪化の程度は小さい。仮に多少の差が見られたとしても、それにどんな意味があるのかははっきりしません。

以上のように、効果についてはっきりしてない点も多く、程度も少ないため、現時点ではそれほど過敏になる必要はなさそうです


うちでは、
とはいえ、原油を材料にした化学物質をあえて食べたいとも思わないし、積極的にタール色素を摂取する理由もないので、うちで作っている料理・菓子類にはタール色素は使っていません。サフラン、パプリカ、ターメリックのようにスパイスとして色素を含む食材を使うことはありますが、あえて着色料は家に置いていないということです。もちろん、タラコなど食材の一部に色素が入っている場合、買って食べることもありますし、お土産物のお菓子などに入っていた分には、あえて避けることもなく食べている、というスタンスです。安息香酸塩に関しても、積極的に食べたいとは思わないのですが、保存料に関しては、劣化したときの問題も大きいので難しいところです。まあ、仮に影響があったとしてもその程度は少なく、ときたま着色料や安息香酸塩を微量摂取したところで、影響は殆どないと考えられます。どちらも過敏になる必要はないとは思うですが、きちんとした学術論文としての報告がある以上、今後の研究の行方には注意してみていこうと思っています。



参考:タール色素とは
タール色素とは、アゾ色素のようにベンゼン環をもつ色素(芳香族)をはじめとしたコールタールやナフサなどの石油系の材料から作られる合成着色料のことです。石油から化学合成していることと、タールというイメージから体に悪いのではないかと疑念をもたれることが多い添加物です。確かにタール色素の中には発がん性をもつものも知られていますが、現在、食品に使用が許可されている12品目(赤色2号、赤色3号、赤色40号、赤色102号、赤色104号・赤色105号、赤色106号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号、青色2号)に関しては、様々な検査の結果、現時点では安全と考えられています。毒性試験が繰り返し行われていますから、大量に摂取するならばともかく、食品に含まれている程度の量ならば基本的に安全と考えられます。
「合成着色料」というとどうしても危険なイメージを持ちがちですが、天然の素材だからといって安全とは限りません。例えば西洋茜から得られていたアカネ色素は、発がん性が認められたため現在では使用が禁止されています。一方、タール色素の一種である青色1号(ブリリアントブルー)は、毒性がみられないばかりか、抗炎症作用があることがわかり、動物では脊髄損傷からの治癒を早めるという驚きの作用が証明されました(Peng et al,2009 PNAS)。体調がわるい時にお世話になる薬の多くは化学合成で作られたものであり、当然、厳しい安全性チェックをクリアしたものです。天然だから大丈夫、化学合成だからだめ、とは一概には言えないことは注意が必要です(構造式は赤40号;wikipediaから)。


参考:安息香酸塩とは
アンソクコウノキ(ツツジ目)から得られたといわれ、香料として使われることがある上に、静菌作用があるために、清涼飲料水などの保存料として頻繁に用いられています。科学的には、ベンゼン環をもつ芳香族化合物です。飲料水中の条件によっては、人体に有害なベンゼンに変化してしまう可能性も指摘する人もいますが、変化する割合は微量であるため、大きな問題にはならなそうです。とはいえ、成分同士の相互作用は気をつけた方がいいもの、必要以上に同時摂取するのは控えたほうがいいかもしれません(構造式はwikipediaから)。



参考資料:
McCann D, Barrett A, Cooper A, Crumpler D, Dalen L, Grimshaw K, Kitchin E, Lok K, Porteous L, Prince E, Sonuga-Barke E, Warner JO, Stevenson J. Food additives and hyperactive behaviour in 3-year-old and 8/9-year-old children in the community: a randomised, double-blinded, placebo-controlled trial. Lancet. 2007 Nov 3;370(9598):1560-7.
一部のタール色素と安息香酸塩の混合物が、子どもの多動性を増やす可能性を示唆する介入研究の論文です。

Peng W, Cotrina ML, Han X, Yu H, Bekar L, Blum L, Takano T, Tian GF, Goldman SA, Nedergaard M.
Systemic administration of an antagonist of the ATP-sensitive receptor P2X7 improves recovery after spinal cord injury. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Jul 28;106(30):12489-93. Epub 2009 Jul 27.
青色1号の抗炎症作用が脊髄損傷後の神経再生に役立つ可能性を示した論文です。

英国食品基準庁の通達(2008/4/4)
http://www.food.gov.uk/safereating/chemsafe/additivesbranch/colours/hyper/

欧州食品安全当局の通達(2008/3/14)
http://www.efsa.europa.eu/en/press/news/ans080314.htm

2010年8月9日月曜日

それほど気にすることもない魚に含まれる水銀

今日は魚にわずかに含まれていることがある水銀のお話です。
結論から言えば、少しだけ気に留めておけば、心配するほどのものではありません。魚には、良質な不飽和脂肪酸やたんぱく質が含まれていて、健康維持に有益と言われています。他にもいろいろ要因はあるものの、確かに、魚を多く食べる習慣のある日本(世界一)、地中海諸国(イタリア、スペイン、フランスなど)はいずれも高い平均寿命を誇っています。一方で、魚にはわずかながらの水銀が含まれており、特に妊娠しているときは気をつけたほうがいい場合もあるといわれています。

水銀は人体に必要ない元素
水銀は、常温で液体であるにもかかわらず、比重が重い重金属です。その性質を活かして、古くから温度計や化学工業などで広く使われています。亜鉛や銅などを筆頭に、大量に食べると害をなす物質であっても、微量ならば人体にとって必須元素!という例が非常に多いのですが、水銀やアルミニウムは人体には必要なく、基本的には摂取を避けた方がよい物質です。微生物によって少し変化したメチル水銀(有機水銀)は特に有害で、脳や脊髄など神経系にダメージを与える恐れがあります。かつて、大量の水銀を含む排水によって水俣湾沿岸の魚が汚染されてしまい、水俣病という重篤な公害病が発生してしまいました。今では工業排水は厳しく規制がかけられ、汚染された土壌も適切に管理されているため、日本の市場に出回る魚を食べることで、水俣病のような重篤な水銀中毒を起こす可能性は皆無です。その点から言えば、まったく心配する必要はありません。

胎児は水銀の影響を受けやすい
そもそも海水にはごく微量の水銀が含まれているため、魚介類にはわずかな水銀が含まれていることがあります。私たちの体には、不要なものを排出する機能が備わっているため、わずかな量の水銀を摂取したところで、すぐに排出してしまうため、特に影響がでることはありません。しかし、胎児や新生児はその能力が低く、水銀の影響を受けやすいといわれています。という訳で、妊娠している間は、水銀の摂取をできるだけ控えた方がよいのではないか、と言われるようになってきました。もちろん、(現在市場に出回っている程度の水銀濃度であれば)仮に食べ過ぎてしまった場合の影響としても、微妙に感覚への応答時間が少し遅れる・・・程度の違いが報告されている位で、重篤な障害につながるほどの量ではありません。とはいえ、影響は受けない方がよいには越したことはないので、妊娠している場合は、水銀の摂取を2μg/kg体重/週(1μgは、100万分の1g)までにおさえた方がよい、というのが基準になっています。つまり50kgの体重であれば、1週間で100μg(→0.0001g)以上の水銀は食べない方がよいということになります。

魚によってかなり変動がある
では、実際の魚にどれくらいの水銀が含まれているかといえば、種類によってかなり違いがあります。厚生労働省のページによれば、水銀が特に多く含まれている海産物としては、近海のクジラ・イルカ類で、21μg/g(バンドウイルカ)に達するものもあります。日常的に食べる可能性のある魚としては、メカジキやメバチマグロで1μg/g程度です(高級なクロマグロも同じ位)。妊娠している場合、近海のクジラ類は基本的に避けた方がよく(厚生労働省では2ヶ月に1回程度にとどめることを推奨)、1食80g位(切り身1切れに相当)であればマグロ類は1週間に1度程度に抑えたほうがよいことが推奨されています。ちなみにマグロ類でもキハダマグロ(0.3μg/g程度)、カツオ(0.15μg/g程度)は水銀は少なく、妊娠していてもそれほど気にする必要はありません。一方、同じ魚介類であっても、イワシ(マイワシで0.024μg/g程度)、アジ(0.049μg/g程度)など日頃から沢山たべる魚には水銀はほとんど含まれていません。魚によって水銀の含まれる量が大きく異なるのはどういった理由なのでしょうか。

1.「肉食」の魚ほど水銀が濃縮される
いわゆる生物濃縮というやつです。イワシやアジのように食物連鎖のピラミッドの下位にいる魚は水銀をほとんど含んでいません。でもそれらの魚を食べて生きている魚(マグロなど)は、少しだけ濃縮されます。さらにその魚を食べるクジラ類(特に肉食のイルカ類)はさらに濃縮されるので比較的多くの水銀が含まれてしまうことになります。

2.深海魚では濃度が高め
水銀を含むいろいろなものは、海底の方へ沈んで行きます。そうすると、どうしても深海に住んでいる魚のほうが水銀濃度が高めになります。例えばキンメダイは0.7μg/g程度の水銀を含みます。

3.内臓は注意した方がよい!
厚生労働省の資料で明らかにされているのは、魚肉中に含まれる水銀濃度です。イルカ類を除けばほとんど心配要らない水準ですが、内臓に関しては少し注意した方がいいかもしれません。人でいえば肝臓に相当する場所に水銀のような重金属が濃縮される傾向にあるからです。

という訳で、一口で魚介類といっても、アジやイワシのような魚は妊娠していても、全く気にせず食べてよいことになります。これらの魚に含まれているDHAなどの不飽和脂肪酸は子供の脳の発達を助ける働きがあるかもしれない、とさえ言われていて、むしろ積極的に食べた方がよいといえます。
繰り返しになりますが、日本の市場に出回っている魚について言えば、ほとんど気にする必要がないことがわかりました。妊娠している可能性のある場合、マグロなどを食べ過ぎないように少しだけ気に留めておく必要がありますが、豊富な栄養を含むためイワシやアジなどの大衆魚はむしろ積極食べた方がよいといえます。



ちなみに、gatto e topoの記録を見返したところ、我が家で日常的に食べている魚で該当するのは、メカジキ、メバチマグロ位ですが、週1回からそれ以下でした。日頃からよく食べているイワシ、アジ、タラ、マダイ、イカ、タコなどは、水銀に関してはほとんど気にすることはないようです(「タイ」でもキンメやアマダイは比較的多く含むようです)。という訳で、むしろ積極的に魚を食べています。



参考資料:
厚生労働省の下記資料を参考にしました。

魚介類に含まれる水銀の調査結果(まとめ)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/05/dl/s0518-8g.pdf

妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しについて(Q&A)(平成17年11月2日)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/051102-1.html#goku

2010年8月7日土曜日

辛味は味覚に含まれない!?

今日は味覚についてのお話です。

味覚を細かく調べると、いくつかの要素に分かれることが知られています。

甘味、酸味、塩味、苦味、うま味

この5つを基本味といいます。

舌の表面には味蕾という構造があって、その表面には、それぞれの基本味に反応するセンサーがあります。つまり「甘味に反応するセンサー」「酸味に反応するセンサー」「塩味に反応するセンサー」「苦味に反応するセンサー」「うま味に反応するセンサー」といった具合にそれぞれのセンサー(受容器)があって、塩味センサーに対してナトリウムイオン(食塩に含まれる)、といった具合に対応する物質がくると反応して、その反応を脳へと伝えています。そして、基本味の組み合わせで味が表現されているというわけです。

ちなみに、わりと最近まで基本味は「甘味、酸味、塩味、苦味」の4つとされていました。出汁・旨み調味料の歴史が長い日本ではごく当たり前に考えがちな「うま味」ですが、科学研究の中心地、米国・英国では、味の構成要素として認められていなかった、ということはある意味興味深いです。味覚に対する意識の違いを表している可能性があります。しかし、最近の研究で「うま味」つまりアミノ酸に応答するセンサーが舌の表面(味蕾)で見つかり、基本味として受け入れられました。という訳で「うま味」は英語でも「umami」です(最近、6種類目の「基本味」が見つかったという話も)。

うま味が基本味として認められるのであれば辛味はどうでしょう。Gatto e topoで紹介している各国料理でも、唐辛子などスパイスによる辛味は欠かせない存在です。ところが、実を言うと、辛味は5つの基本味には含まれていません。味蕾表面には辛味に応答する特別なセンサーは存在しないのです。では、どうやって辛味を感じているかというと、、、秘密は舌の内部にあります。表面から少し入ったところには、痛みを感じる神経がたくさん分布しています。痛みを感じる神経の表面には、唐辛子の辛味成分であるカプサイシンに反応するセンサー(カプサイシン受容体)が沢山あります。つまり、「辛味」とされていた感覚は、痛みと同一のものだったのです。そんな訳で、辛味は、基本味には分類されず「(適度に弱い)痛覚」の仲間とみなされています。だからこそ、辛すぎる食べ物は「痛い」と感じるわけです。ちなみにこのセンサーは、熱(温度)にも反応します。だから唐辛子の辛さは「熱い(hot)」と表現されるし、辛いスープはいつまでたっても熱く感じる傾向にあるのです。

そんな訳で、「辛味は味覚(基本味)に含まれない」のですが、そうはいっても、私たちは舌からの情報だけで物を味わっている訳ではありません。舌から感じ取る基本味に加えて、舌・口の中全体に広がるぴりぴりとした辛味(実は痛み)、物体のテクスチャー・硬さ・弾力、そして鼻に抜ける匂いなど総合的に感じて「味わって」います。もちろん、口に入れる前の見た目も大切な要素です。辛味も料理を味わう上で大切な要素であることは間違いありません。さらに、カプサイシンには食欲を増進させたり、発汗などによって体温を下げてくれる効果があります。だから、インドやタイなど暑い地方を中心に、辛い料理が人気があるのです。



さて、唐辛子に含まれるカプサイシンに対するセンサーですが、舌にとどまらず、全身の皮膚の痛覚神経に分布しています。だからこそ、ハラペーニョやハバネロのように強力な辛味を持つ唐辛子を切るときには用心した方がいいのです。その怖さ(辛さ!)を知らないとき、適当に包丁でハバネロのみじん切りを作っていたら、ひりひりと手が腫れ上がってしまい、数時間にわたって苦しんだという苦い経験があります。辛い唐辛子を扱うときはぜひ気をつけてください。

もう一つ、辛い食べ物を口にして、最初の瞬間は余裕だ、と思っていたのに、激しい辛味が遅れてやってきた!という経験はありませんか?辛さを感じるのは、舌でも皮膚でも表面から少し入ったところですから、カプサイシンが浸透してから感じられます。しかもカプサイシンに反応する痛覚の神経は、非常に細く、情報を伝える速さが他の神経よりゆっくりとしています。痛みの中でも鋭い痛みとじんわりとした痛みがあると思いますが、カプサイシンに反応する「辛味」を伝える神経は後者に一致します。だから他の味覚に比べて、少し遅れて感じるのです。しかも辛味を抽出するには、ごま油やオリーブオイルといった油を使う必要があることからもわかるとおり、カプサイシンは油に溶けやすい性質を持っています。だから洗い流すのも大変です。いくら水を飲んでも、辛さが口に残った経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。個人的な経験では口に残った辛さを緩和するには脂質を含む牛乳やココナッツミルクが有効(?)です。その辺りでも、インド料理やタイ料理はよく考えられていると覆います。

いろいろメリットのあるカプサイシンですが、体は「痛み」として感じていることは先に書いた通りです。適度な辛さは心地よいですが、辛すぎるのは考え物、痛覚の神経を痛めたり、自律神経の反射によって消化器に負担をかけたりします。ほどほどの辛さで料理を楽しむのが健康にはよさそうです。

(イラストはwikipediaより)

追記:読みにくい箇所があったので、加筆・修正しました(8月8日)。

2010年6月27日日曜日

口内炎ができた

今週は、いろいろ忙しく、食生活が乱れてしまったのですが、数年来の巨大な口内炎ができてしまいました。いわゆる口内炎の原因は必ずしもはっきりしていないのですが、私の場合、体調が優れないとき(疲れているとき)、食生活が偏ってしまったときなどにおこりがちです。

ちなみに、数年位前までは、1-2ヶ月に1度(一度できると1~2週間)は口内炎に苦しめられてきたのですが、最近はすっかりご無沙汰していました。少なくともブログを書き始めてから(1月から)半年の間、気になるほどの口内炎はこれがはじめてです。数年前の自分と今の自分の食生活で何が違うかを考えてみると、

・野菜(特にトマト、ニンニク)
・チーズ
・オリーブオイル


この3つが劇的に増えています(下2つに関しては、以前はほぼ0)。どれも(オリーブオイルにも抗炎症作用があるといわれている)可能性はあるのですが、欠乏したときの「症状」から考えるとチーズが一番可能性がありそうです。ほんの数日の食事の乱れと疲れでどうにかなってしまうのも、いかがなものかと思うのですが(笑)、思えばここしばらく、あんまりチーズを食べていなかった気がします。やっぱり、チーズには口内炎を防ぐ何かが含まれているのかなあ、と思っています。


ちょっとだけ科学的なことを書くと、チーズには沢山のビタミンB群が含まれていますが、これらは細胞の修復に必要な栄養素です。だから効果があっても全然不思議ではありません。とはいえ、個人的な経験でいうと、ビタミン剤や健康ドリンクの類は、口内炎にはさほど効かない印象があるので、単純にビタミンB群だけでなく、熟成に伴って生じたアミノ酸など微量成分が効いているのではないかと思っています。

・・・ということで、早速、チーズを買ってきました。これまでの独断と偏見に満ちた(笑)経験に基づいて立派なブルーチーズです(予防にはブルー系が効く印象があったので)。



これがその秘薬(笑)。。。
冗談は抜きにして、初めて買ったベルギーのブルーチーズ、、、どちらかというと南欧系のチーズを買うことが多いのですが、これはとてもおいしかったです。



ここ数年来、少し口内炎ができても、チーズを食べると、2-3日で直ることが多かったのですが、今回はどうなるか・・・。

(*)今日の話はあくまでも個人的な経験に基づくので、話半分に聞いてください(笑)。ちなみに、ブルーチーズのカビは、人体に害をなさない種類のものが使われていますが、基礎疾患があって免疫力の落ちている方の場合には、こういう目的で食べるのは控えてください。口内炎の話題から離れますが、リステリアのこともあるので、妊婦もナチュラルチーズの摂取は避けた方がよいと言われています(加熱すればOK)。もちろん健康な方は気にする必要はありません。

追記:妙薬の効果か、同時に山のように食べた野菜やオリーブオイルのおかげかわかりませんが、口内炎の方は、その後数日(水曜にはほぼ完治)でよくなりました(7/3追記)。

2010年5月4日火曜日

硝酸塩と食品

今日は、硝酸塩のお話。
たいていの食品には、有益な成分と有害な成分が含まれているので、気にしすぎいては何も食べられなくなるという話もあるのですが、少しだけ気にすることで、おいしいと体にいいを両立させようというのが、こちらの趣旨です。

・添加物としての亜硝酸塩はたいした量ではない
硝酸塩(亜硝酸ナトリウムなど)は、ハムやソーセージなど畜産加工品の発色材・防腐剤として、頻繁に使われていて、しばしば発がん性との関連が心配されています。しかし、国内、EU圏などでは、しっかりとした安全基準が定められていて、心配するほどの量ではないといわれています。実際、厚生労働省の基準では、食肉中に許容される亜硝酸ナトリウムの量は70mg/Kgまでで、次に書く葉物野菜に含まれる濃度に比べるとずっと低い値です。

・日本の葉物野菜には多くの硝酸塩を含まれている!
ハムなどに比べて、はるかに多くの亜硝酸塩を含む食品があって、例えば、ほうれん草やサラダ菜などの葉物野菜には、非常に多くの亜硝酸塩が含まれていることが知られています。農水省のWEBサイトによると、日本のほうれん草には、平均して3560(±552)mg/kg(!)の硝酸イオンが含まれているそうです。これはEUの基準(3000mg /Kg以下)を超えています。植物は、土壌から硝酸塩(肥料でいうところの「窒素N」です)を吸収して、養分として使っていますから、野菜の状態や土地の性質(+肥料)によって、土地ごとに含有成分が異なるのは致し方ないことです。

・硝酸塩自体はたいした毒性はないけれど・・・
実は、この程度の量の硝酸塩自体はたいした毒性はありません。しかし、魚などに多く含まれる生体アミン(アミノ酸から変化してできる)と結びつくと発がん性のあるニトロソ化合物が生じる可能性があり、多少の注意が必要です。いわば「ウナギに梅干」(これは迷信)ならぬ、「魚に葉物野菜」に注意、という訳です。とはいえ魚と葉物野菜をいつも避けるわけにはいかないですし、魚も葉物野菜もどちらも多くの有益な成分を含んでいます。

・茹でてしまえばよい
いろいろ難しいことを書いてしまいましたが、実は簡単な解決策があります。硝酸塩は水溶性なので、茹でてしまえばだいぶ抜けてくれるのです。茹でてから水洗い、水切りをすれば実に半分近くの硝酸塩が除去できることが知られています(農水省WEBサイトによる)。

昔から、「ほうれん草はアクが強いので必ず茹でること」といわれてきましたが(実際に「シュウ酸」という灰汁成分が多く含まれています)、硝酸塩対策の面からも有効だったんですね。
そんな訳で、うちでは、ほうれん草は必ず茹でて、水洗いしてから使っています。
冷凍保存も利くので便利です。

(*)ちなみに、サラダほうれん草に含まれる硝酸塩の量は、ずっと少なくて、189(±233)mg程度しかないようなので、生食して大丈夫です。


参考:
農林水産省・野菜中の硝酸塩に関する情報
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/syosanen/index.html

2010年3月21日日曜日

気をつけた方がいいかもしれないトランス脂肪酸

今日はトランス脂肪酸のお話。
「○×を食べてはいけない」「○×を食べると健康によい」という話が巷にあふれていますが、トランス脂肪酸については避けた方がいいのは確かなようです。


トランス脂肪酸とは
不飽和脂肪酸(脂質)にはシス型とトランス型があります(光学異性体というやつです)。二重結合を1個もつオレイン酸を例にみてみましょう。

オリーブオイルなどに含まれているオレイン酸、これはシス型です(画像はWikipediaから)。

オレイン酸(シス型)




一方、二重結合(=)の場所で、鎖が向き合うようになっているのがトランス体です。

エライジン酸(トランス型)




シス体とトランス体の光学異性体は、組成は全く一緒なのですが、生体に対する応答が全く異なります。
私たちの体に必要な脂肪酸は、シス体だけなのです。


合成過程でトランス脂肪酸が混ざってしまう!
栄養素としては必要ないトランス脂肪酸ですが、一部の食品には多くのトランス脂肪酸が含まれています。
植物性油脂などの不飽和脂肪酸は、常温では液体ですが、二重結合の場所に人工的に水素をつけてあげることでバターやラードといった動物性油脂のように固体に変えることができます(硬化油)。






上の図(画像はWikipediaから)は、オレイン酸に水素をつけることで(水素添加)、ステアリン酸を合成する過程をあらわしています。こうすることで、常温では液体の植物性油脂から、固体の油脂(硬化油)を得ることができるのです。植物性をうたったマーガリン、ホイップクリーム、ショートニングはこのようにしてつくられます。過剰摂取が動脈硬化を招くとして、しばしば悪玉イメージが強い動物性油脂(バターやクリームなど)に対して、善玉イメージが強い植物性油脂を主原料とするマーガリンの方が健康によいイメージさえありました

しかし、上の図で示すように、この水素添加の過程で、トランス型の配置を持つ脂肪酸、つまりトランス脂肪酸も一定の割合でできてしまうのです。
なお、牛などの反芻動物の消化管にすんでいる微生物の影響で、牛乳や肉類の脂には、もともと多少(せいぜい数%)のトランス脂肪酸が含まれていることも知られています。しかし、後で書くように、問題になるほどのトランス脂肪酸が含まれているのは、工業的に水素添加された硬化油です。


トランス脂肪酸は動脈硬化のリスクを高める!
「○×を食べてはいけない」「○×を食べると健康によい」という話が巷にあふれていますが、多くの場合、表裏一体、食べ過ぎれば健康に悪いし、適量食べれば健康にいい、みたいなものが大半です。根拠が薄弱なものもありますし、中には重金属のように「食べてはいけない」毒物のはずが、実は必須元素(もちろん微量ですが)、みたいなことさえあります。
日本ではあまり話題になっていませんが、トランス脂肪酸に関していえば、食べても益はないし、できるだけ避けた方がいいということが、疫学を含む科学研究からしっかりとした裏づけられています。
様々な研究から裏付けられたのは、トランス脂肪酸を摂取すると、血液中のHDLコレステロールを減らし(俗にいう善玉コレステロール)、LDLコレステロール(俗にいう悪玉コレステロール)を増やす方向に働くことで、血管の動脈硬化を増やすということです。その結果として、狭心症や心筋梗塞などの心疾患を起こしやすくするほか、脳梗塞などの脳血管障害のリスクをあげると考えられます。
実際に、大規模な疫学調査から、トランス脂肪酸の摂取は冠動脈性心疾患のリスクを増やすことが明らかになりました。よくある俗説などでは決してなく、トランス脂肪酸の過剰摂取を避けた方がいいことが科学的に立証されたのです。


日本人の食生活では大丈夫とはいうけれど・・・
さて、科学的にトランス脂肪酸の危険性が立証されたため、欧米各国では食品中に含まれるトランス脂肪酸について厳しい規制が始まっています。しかし、日本では一部で心配する声があがっているものの、法規制はありません。一部の食品会社が自主規制をしている状態にとどまります。

厚労省の定める「日本人の食事摂取基準」にはまだ基準が設けられていませんが、高まる不安に答えて、農水省のWEBにはトランス脂肪酸に関するサイトが公開されています。しかし、日本人の平均的な食生活をしていれば、平均総エネルギー摂取量の0.5%程度であり(WHOの1%以下に抑えるべきという基準を満たしているため)問題はないとしています。

しかし、うちでは週の半分以上を地中海料理で占めているように(笑)、すべての人が平均的な食生活をしているわけではありません。例えば、朝は、マーガリンたっぷりのパン(マーガリン&ショートニング添加)を食べ、昼は、ポーションミルク(植物性のもの)をたっぷり入れたコーヒーと共にフライドポテトをたっぷり、そしして夜は、さくさくにあがった唐揚(ショートニング添加)を食べ・・・みたいなことをすると、たちまちWHO基準を超えてしまうことは明白です。少し前までは「バターは健康に悪いのでマーガリンを」「植物性のクリームを使ったケーキだから健康的」みたいな話をよく聞いていたので、意外に危ないのではないかと感じています。

もちろん、総エネルギー摂取の1%以下(ようは過剰摂取しなければ)におさえれば大きなリスクにはならないといわれていますので、牛乳など天然の食品にも少しは含まれている程度の割合のトランス脂肪酸なら心配ないと思われます。しかし、工業的に水素添加した副産物、つまりトランス脂肪酸を10%を超えて含むようなマーガリン、ホイップ、ショートニングなどはできるだけ食べないことに越したことはないと考えられます。日本でもはやくトランス脂肪酸量を減らした商品が普及してほしいものです。


私自身が気をつけていること
公表されている調査結果(下記リンク)などを参考に極端にトランス脂肪酸を多く含んでいる可能性のある食品は避けています。多少含んでいるものは食べ過ぎないように気をつける程度で、大丈夫だと考えています。

確かに、牛乳、牛肉など反芻動物由来の食品には多少のトランス脂肪酸(微生物由来)が含まれています。チーズ、バター、クリームなど乳脂肪100%の商品であっても、数%のトランス脂肪酸は含みます。牛乳などを濃縮してつくるので天然由来のトランス脂肪酸が濃縮されるのだと思います。濃度が高くないので、食べ過ぎなければ大丈夫(それ以外のメリットが大きい)と思います。しかし、10%を超えるような食品は避けた方がいいでしょう。下のリンクにある農水省のデータからは、ポップコーン(おそらくショートニング添加品)、コンパウンドクリーム(植物性のホイップクリーム)、マーガリン、ファットスプレッド(パンに塗るもの)、ショートニングが該当します。

食品中のトランス脂肪酸含有量(農水省WEBサイト)

農水省のWEBサイトでも指摘している通り、そもそも脂肪の食べすぎ、塩分の取りすぎなど他に気をつけた方がいいことが多いのも事実です。最近、輸入品などで見かけ始めたトランス脂肪酸フリーのショートニングならOKといえますが、どちらにしても脂肪の食べすぎはNGです。

さて、トランス脂肪酸について、私自身が実践していることは以下の通り。
例えば一例を。

・パンは、マーガリン・ショートニングの入っている可能性が少ないフランスパン。

・マーガリンではなく、バター(少量)かオリーブオイル。

・コーヒーには、普通の牛乳。

・料理には乳脂肪100%のクリーム(しかも、でないと分離します!)。

・菓子類で原材料表記に「ショートニング」を含むものを常食するのは避ける。

(*)トランス脂肪酸フリーならまあOK(脂肪の食べすぎはNG)。

もちろん、私も、外出先などでポーションミルクを使うことはありますし、明らかにショートニングを使ったお菓子を食べることもあります。疫学から考えて、それくらいは気にする必要がないのは明白です。しかし、現状では法規制がないので、トランス脂肪酸を多く含んでいるかもしれない食品(マーガリン、植物性クリーム、ショートニングを使った揚げ物・菓子類)は食べ過ぎないように気をつけた方がいいのは確かだと思います。

参考:
トランス脂肪酸に関する情報(農林水産省)

2010年2月14日日曜日

オリーブとオリーブオイル



オリーブの実の果肉を搾ったものがオリーブオイルです。地中海周辺の風土に合っている上に、搾るだけで搾油できるので、ローマ時代から地中海周辺ではオリーブオイルがたくさん使われてきました。その他の地域の料理の場合、別の種類の油が指定されていることも多いのですが、うちでは、ほぼいつもオリーブオイルを使っています。味が好みというのもありますが、他の油よりも健康にいいのではないかと考えているためです。

数ある「健康食品」の中では、根拠が割としっかりしている数少ない例:
巷で、健康にいいかも!?という食材は沢山あるのですが、実はきちんと裏づけされている例はあまりおおくありません。そんな中、オリーブの実・オリーブオイルについては、心筋梗塞発症のリスク低減(高血圧、高コレステロール血症の緩和)、乳がん・大腸がんのリスク低下に有効とする科学論文が複数報告されています。しかも、(過剰使用を除く)危険性を指摘する報告はほとんどありません。実際に、オリーブオイルを多く使うイタリア、スペインなど地中海諸国では心筋梗塞が少ないという報告があります。

参考:国立健康・栄養研究所「健康食品の素材情報データベース」
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail493.html


オリーブオイルの正体は:
ちなみにオリーブオイルの主成分は、オレイン酸という脂肪酸(油)です。




(図はWikipediaから引用)

イラストの通り、二重結合を1つだけ持った不飽和脂肪酸です。
魚の油のように多数の二重結合を持った不飽和脂肪酸は心筋梗塞のリスクを減らすなど、「体によい」といわれています。でも、容易に酸化してしまう欠点があります。酸化した油は非常に味が悪く、健康にもよくありません。だから魚油は炒め物には適しません(長期保存も×)。一方、肉に含まれる油には、二重結合を持たない飽和脂肪酸の過剰摂取は生活習慣病につながる可能性が指摘されています。
オリーブオイルの主成分であるオレイン酸は、不飽和脂肪酸である上に酸化されにくい性質があるので、炒め物や揚げ物にも向いている健康的な油といえます。
もちろん、脂肪酸であることには変わりませんから、カロリーは高いです。いくら体によさそうだからといって食べ過ぎには注意が必要です。
ちなみにオリーブオイルには、オレイン酸などの脂肪酸のほかに、様々な微量成分が含まれています。それらが生理活性物質としていろいろ働いているという話もあるようです。


単に好みの味だから使っているという話もあるけれど、
そんな訳で、油を使う場合には、できるだけオリーブオイルを使うようにしています。
(幸いなことに、これだけ飲み食いしていても、今のところコレステロール・中性脂肪共に低めです)
食べているうちに癖になってしまったという話もあるのですが・・・。