これまでの傾向から、栽培物 or 養殖物は、多くが大丈夫で、自分で採取するような野生のものが要注意と考えています。 ・野生のキノコ → 東日本全域 ・野生の獣肉 → 東日本全域 ・養殖でない淡水魚 → 原発周辺+ホットスポット周辺 ・原発周辺の魚介類 → 底生魚・海藻(原発周辺) ・常緑樹 → 東日本全域 栽培品では、穀物(麦、米)、常緑樹の果実(柑橘)・葉(茶葉)、ナッツ類(栗など)がセシウム吸収をしやすいようなので、モニタリング調査の結果に注意する必要がありそうです。 |
これまでの緊急モニタリング調査(放射性セシウム500Bq/Kg)やチェルノブイル事故時の超過事例(放射性セシウム370Bq/Kg以上)を元に、何に気をつけたらいいのかを考えていきたいと思います。
まず、緊急モニタリング調査で暫定基準値超えのあったものは次のとおりです(11月末時点)。なお、暫定基準値超えのあった食品の全体的な傾向としては、検査結果のばらつきが非常に大きいということがあります。暫定基準値超えがでた地域であっても、放射性セシウムがほとんど出ないこともあり、値はかなり上下します。そういった食品では検査頻度の増加が望まれます。
キノコ:原木シイタケ、原木なめこ、原木くりたけ、菌床シイタケ(1例のみ)
野生キノコ(菌根菌):アミタケ、マイタケ、コウタケ、ハツタケ、チチタケ
野生キノコ(腐生菌):ハタケシメジ、チャナメツムタケ
→菌床キノコは、基準超えは1例のみ(10月末現在)で、培地に気をつけてもらえれば今のところ大丈夫そうです。野生きのこは、極端に高い値(9/1福島県棚倉町チチタケ28000Bq/Kg)が出ています。基準値超が出る地域もかなりばらついていて、原発に比較的近い場所でもあまり出ていないサンプルもある一方、かなり離れた場所(10/26長野県佐久市のチャナメツムタケ1320Bq/Kg)でも基準値超が出ています。菌根菌に比べて腐生菌はセシウム吸収が少なめという話もありましたが、現実には基準値超が出ています。放射性セシウムの値が極端に高くなることもあり、どこで高くなるのかもはっきりしないので、総じて野生のキノコには注意が必要です。
山菜類:くさそてつ(こごみ)、たけのこ
→成長が速い植物や土壌表層に根を張る植物(キノコも同様)はセシウムなどを取り込みやすいと考えられます。特にモニタリングが行われていないような野生の山菜狩りには特に注意が必要です。
獣肉:イノシシ、シカ、ツキノワグマ
畜肉:牛肉
→牛肉は、3月の事故当時に屋外に出ていた稲わらを牛に与えてしまったのが主な原因です。このため地域によらず基準値超が出てしまったのですが、餌に気をつけていただければ大丈夫そうです。一方、野生の動物は放射能の少ない餌を選ぶわけではないので、総じて高い値になります。広範囲に注意が必要です。
淡水魚:ヤマメ、アユ、ワカサギ、ホンモロコ、ウグイ、イワナ
→ 福島、群馬の山間部で暫定基準値超の淡水魚が見つかっています。「放射能と淡水魚」で取り上げたように、淡水魚は水中の塩類(セシウム)を取り込みやすい上、苔などの餌に多くのセシウムが含まれている可能性があります。チェルノブイリの例から考えると、特に湖沼などの閉鎖水域ではセシウムが循環してしまうため、問題が長期化してしまう恐れが考えられます。モニタリング調査が万全で無い限り、野生の淡水魚には注意が必要です。一方、餌や水に気をつけていれば養殖の淡水魚は安全といえ、今のところ極端な値を出した例はなさそうです。
原発周辺(福島沖)の魚介類:カタクチイワシ、コウナゴ、エゾイソアイナメ、アイナメ、コモンカスベ(エイ)、イシガレイ、マコガレイ、ウスメバル、シロメバル、ナメタガレイ、クロソイ、スズキ、ヒラメ、キタムラサキウニ、ホッキガイ、モクズガニ、ムラサキイガイ
原発周辺(福島沖)の海藻:アラメ、ワカメ
→モニタリング調査で暫定基準値超えが出ているのは、ほとんどが原発周辺(福島沖)で、茨城・宮城沖になると平均値はかなり低くなります。カタクチイワシ、コウナゴは汚染水流出のあった初期(4月)で、海水中のセシウム濃度がすっかり低くなった現在は収まっているようです。海底土壌の調査では沿岸でセシウムが高い傾向があり、実際、アイナメやカレイなど底の方にいる肉食の魚で高い傾向があります。同じ理由で海藻類にも注意が必要です。いまのところ市場に出回っている魚は原発周辺で漁獲されたものではないはずなので、そう心配はないと考えています(さらに一歩前進で、今後は、表示義務が水揚げ港ではなく漁場で表示されるようになるそうです)。ただし、魚種によって数十bq/Kg位の放射性セシウムを含む魚がかなり広域に分布しているようです。いずれにせよ、(わざわざ警戒区域に入って魚釣りをする人はいないとは思いますが)原発周辺の海域で釣りをして食べたりするのは避けたほうがよいと思います。
常緑樹:ユズ、イチジク、ビワ、茶葉
→ チェルノブイリ事故の際も、ローレル(月桂樹)やローズマリーなど常緑のハーブのセシウム汚染が問題になりました。事故時にあった葉についたセシウムを取り込んでしまう可能性も指摘されています。ただし、ハーブ類もそうですが、茶葉も乾燥の影響もあります。乾燥させると重量比ではセシウムが濃縮することになるため、大きな値が出やすくなります。静岡茶でも暫定基準値超が問題になりましたが、静岡だけが極端にセシウムが降下したわけではなく、むしろ空間放射線量や降下量のデータを見るかぎり比較的少なかったと考えられます(東京の1/10程度)。常緑樹に関しては、来年どうなるか(土壌からの取り込みが少ないのならば改善するはず)注視が必要です。
栗、なたね、小麦(穀類)、コメ、ザクロ
→栗、菜種、穀物(特に麦類)は放射性セシウムの影響を受けやすいと言われています。チェルノブイリ事故の時にもナッツ類(ヘーゼルナッツなど)や小麦の汚染が問題になりました。コメは土壌セシウム濃度が高かったエリアに限られており(*)、麦類よりはセシウム吸収が少ないと考えられます。ただし、コメについては、検査頻度が多かったお陰でいろいろ分かった面があり、セシウムを比較的吸収しやすいとされる他の穀類でも検査頻度を増やしたほうがいいのではないかと考えています。コメに関しては、白米にするとさらにセシウム濃度は減少するため、ほとんどのエリアで安全であると考えています。
他にも3月~4月の事故直後はホウレンソウなどの葉物野菜や牛乳、小魚を中心に暫定基準値超えがありました。こちらは主に、降り注いだセシウムやヨウ素が葉についたため、と溢れ出した汚染水につかってしまった海面付近の小魚たちが影響を受けたものと考えられます。現時点では、原発周辺以外でのセシウムの降下はほぼ収まっているので、葉物野菜については、特に区別して心配する必要はないと考えられます。
チェルノブイリ事故では以下のようなものが、輸入品の放射性セシウム基準値370Bq/Kgを超過しました。事故(1986年)の数年以内の例が大半ですが、キノコやベリー類(ジャム)のように、最近になっても超過事例が報告されています。東欧・中欧では未だにキノコ狩りに注意が必要なエリアが広がっているようです。
キノコ:カノシタ、あんずたけ、くろらっぱたけ、ヤマドリタケ(←ポルチーニ、乾燥品)
ハーブ:月桂樹葉、セージ、タイム、ヒースの花、カモミール、ローズヒップ、リンデン、西洋オトギリソウ、ジュニパーベリー、スイカズラ、ダンデリオン
乾燥ぜんまい(シダ)、黒すぐり
ナッツ類:ヘーゼルナッツ、アーモンド
獣肉・畜肉:牛胃、トナカイ、ビーフ・エキストラクト
日本にきた輸入品ということで、若干偏りはあると思いますが、やはり、傾向は一緒で、野生のキノコ、獣肉、常緑樹(ハーブ類)に気をつけたほうがいいことがわかります。ここでもハーブ類は乾燥時に濃縮する上に量を使わないので、極端に値が高くなければ気にしすぎる必要はないと思います。うちでも、事故後25年が経ち、検査体制も整い、市場に出回るほとんどの商品は輸入規制を満たしているだろうと考えて、欧州地域からのハーブ類(ローズマリーはアルバニア、ローレルはトルコ産を使用)は特に気にせずに使っています。
以上、これまでの傾向をまとめると(冒頭のまとめとかぶりますが)、
・野生のキノコ → 東日本全域
・野生の獣肉 → 東日本全域
・養殖でない淡水魚 → 原発周辺+ホットスポット周辺
・原発周辺の魚介類 → 底生魚・海藻(市場には出まわらず)
・常緑樹 → 原発周辺+ホットスポット周辺
に注意が必要ということです。基本的にこれらの食材は市場にはほとんど出まわっておらず、自分で採取するときに注意が必要だと考えています。栽培品では、麦類、常緑樹の果実(柑橘)・葉(茶葉)、ナッツ類(栗など)がセシウム吸収をしやすいようなので、モニタリング調査の結果に注意する必要がありそうです。なお、「Why」の記事で書いたとおり、暫定基準値を少し越えた程度の食品を少し位食べた所で、(少なくとも大人では)深刻な被曝にはなりません。心配なのでとりあえず控える or 大好物だから少しくらいはOK、などといった判断は、最終的にはご自身でお願いします。個人的には、少なくとも未成年(+若い人)は十分に気をつけたほうがよいと考えています。
うちのブログは、日々の食事日記程度の内容ですが(笑)、「食と健康」のコーナー、こと原発事故の話題に関しては、論文等や公式資料等を参考にしながら、持てる知識や経験を総動員して、客観的かつ役に立つ情報発信をできるように努めていきます。
(*)お米からの放射性セシウム検出について(11/12/03追記)
他の食品に比べると、多くの検査を行なってきたコメですが、その「安全性が確認された」後に、暫定規制値超え(500Bq)がでてしまいました。これまで(11月末の時点)に規制値超が検出されたのは、概ね航空モニタリングで30万Bq/平方m以上と、放射性セシウム濃度がかなり高いと予測されたエリアに一致するようです。土壌の「Bq/平方m→Bq/Kg(農水省調査)」は65で割ればよいと言われていて、30万/65 ≒ 4600 Bq/Kgとなります。もともと5000Bq/Kg以上では玄米が暫定基準値超えになる可能性があるとされていたため(農水省の規制)、概ねこの値に近いと言えます。ですから、土壌のセシウム濃度がそこまで高くないエリアでは、概ね大丈夫だと考えられるのですが、今回の教訓は、検査の値がかなりばらつくということです。今回は、事前の検査の時に(最大)100Bq/Kg台超えを出していたエリアから、暫定規制値超えが見つかっています。おそらく個々の生育条件や水田の状態によってばらついたのだと思いますが、土壌調査や航空モニタリングのデータを参考にしつつ、どれくらい安全率をとればいいかの参考になりそうです。
参考資料:
農林水産物モニタリング情報(福島県)
http://www.new-fukushima.jp/monitoring.php
県内産きのこの放射性物質測定結果(長野県)
http://www.pref.nagano.lg.jp/nousei/engei/kensa/kensa-kinoko.htm#kinoko3
県産きのこ・わさびの放射性物質モニタリング検査結果(栃木)
http://www.pref.tochigi.lg.jp/kinkyu/d07/shiitake1.html
県内農産物・畜産物への影響について(茨城)
http://www.pref.ibaraki.jp/important2/20110311eq/nousanbutsu/
放射能暫定限度を超える輸入食品の発見について(第34報)(厚労省)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0111/h1108-2.html
→チェルノブイリ関係で東欧・中欧産が中心です。
食品中の放射能(日本分析センター)
http://search.kankyo-hoshano.go.jp/food/servlet/food_in?
→福島原発事故前の傾向を見ることができます。ほとんどが放射性セシウム1bq/Kg以下で、現在は平時ではないことを思い知らされます。
(11/11/27、11/12/03)穀類に関する情報を追記。
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